【餘部橋梁事故】風速が基準値を超えた警報音が鳴り、現場より離れた香住駅の状況を確認した際に風速20m/sの強風が出ていたことから、餘部橋梁ではそれよりもさらに強い風が吹いていた可能性は予見できるにもかかわらず、列車の運転がないことを理由に運転抑止の措置をとらなかった。
【「のぞみ34号」重大インシデント】指令員から保守担当の技術者へ「走行に支障はあるか」という問に対して「わからない」とに回答。床下の目視点検の提案をされたにもかかわらずその事を聞き逃し、車両の状況を具体的に把握できていないまま「床下から音はしているものの運転には支障ない」と報告し、列車の運転を続行させた。
どちらも、輸送指令は具体的で確実な状況を把握することなく、「問題ないだろう」という憶測のもとに判断し、列車の運転を続行させたと考えられます。
「のぞみ34号」重大インシデントで、輸送指令はもう一つ初歩的なミスを犯しています。それは、指令内部のコミュニケーション能力の問題です。
前にも述べましたが、指令員が列車無線で保守担当の技術者と状況確認と今後の対応を話し合っている最中に、指令長が指令員に対して報告を求めるために割り込んでいます。
指令長は指令員が今何をしているのかを視覚的に分かる状況であったにもかかわらず、指令員が話し終えるのを待つことなく状況を把握するという自らの職務を優先させました。相手が話し終えるのを待ってから自分の話したいことを話したり、話す相手が話をできる状態になるのを待ってから話したりするというコミュニケーションの基本を守らなかったといえるでしょう。
これには、指令長の職務上の責任やそれに伴うストレスを考慮しなければなりません。新幹線は運転ダイヤを見ても分かるとおり、常に速く確実に運転することが求められています。軽微なトラブル程度で列車を止めるなどあってはならないという風潮があったと推察できます。
特に「のぞみ34号」は博多発東京行きの列車なので、JR西日本管内で起きたトラブルで列車が遅れたり、最悪の場合運転打ち切りなどという事態になれば、新大阪駅から先のJR東海管内の列車ダイヤの乱れにつながるので、できれば避けたいという心理も働いたとも考えられます。さらに、JR西日本の社内体質も加わり、指令長は状況の把握を急いでしまったという可能性もあると思われます。
?
さらに加えると、列車無線のシステムそのものにも重大な弱点があったという指摘をしておきたいと思います。これまでにも述べたように、指令員は現場の乗務員や保守担当の技術者とのやりとりは列車無線を介してでした。
この中で、指令員が使う列車無線の送受話装置は車上に設置されたものと同じ電話の受話器です。指令長から状況説明を求められた指令員は、それに対応するために受話器から耳を離したために、肝心な保守担当の技術者からの「床下をやろうか」という提案を聞き逃してしまっています。
つまり、この列車無線の送受話装置の形状が、異常時に現場や指令所内でのやりとりが極端に多くなる時に操作性や対応能力などに一定の制限を加えてしまうと考えられます。誤解を恐れずあえて厳しい言い方をすれば、異常時に膨大な情報処理とコミュニケーションを必要とされる場面を想定せず、旧来からのシステムの延長線上にある安全性や確実性を考慮しないシステムだということです。