旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

「のぞみ34号」重大インシデントについて元鉄道マンの考察と提言(10)

2.列車無線システムの見直し

 前回までは・・・


 列車の運転中に事故など異常事態が起きた時に、現場の乗務員などと輸送指令が連絡を取り合う手段として、現代の鉄道のほとんどで列車無線が整備されています。
 もともとは常磐線で起きた三河島事故を契機に整備されたのが最初で、国鉄では分割民営化までに全線で整備されました。私が鉄道員として働いていた頃は単信式と呼ばれる方法で、ハンドマイクに取り付けてある通話スイッチ(PTTスイッチとも)を押すことで送信ができ、それを押してない間は受信をするという、いわゆるトランシーバーのようなものでした。
 今日ではデジタル化も進められ、復信式と呼ばれる双方向で送信・受信ができる方式に改められました。言い換えれば、電話と同じ原理になったことで、無線機を操作するというよりも電話で話すようになったため、無線装置には電話の受話器と同じ形状のハンドセットが取り付けられ、指令と話す時にはハンドセットを取り出して話すことができます。

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▲JRの電車の運転台の一例。写真中央部のコンソールに取り付けられているホワイトグレーの受話器が列車無線のハンドセット。(©Ellery Wikimediaより)

 さて、列車に取り付けられている無線装置はこの電話と同じハンドセットでも差し支えはありませんが、指令も同じハンドセットを使って現場とやりとりをしているということに、今回の重大インシデントで課題が顕在化したと考えられます。
 というのも、指令員は目の前にある表示盤やモニターを見ながら操作卓を操作しなければならず、そこへ現場の乗務員と連絡を取り合うためにハンドセットを手にしなければなりません。つまり、片手で受話器を持って話ながら、操作卓で必要な操作をしなければならないということです。
 また、指令員たちを束ねる指令長は、異常事態が起きた時には何が起きているのかを把握する必要があり、必要に応じて指令員に状況を尋ねる場合もあります。この指令長の行動自体は職務上必要なことだと理解できるのですが、問題は現場の技術者が話している最中に、指令員はハンドセットから耳を離してしまったということです。
 常に現場の状況を正確に把握し、適切な判断と実行を求められる指令員が、必要な情報を知らせてきている最中にハンドセットから耳を離すという行動は、今回の重大インシデントで致命的なミスに繋がる第一歩だったといえるでしょう。
 そこで、輸送指令における列車無線システムを見直す必要があると考えられます。
 無線システムの通話方法は復信式のままでもいいでしょう。しかし、実際に指令員が通話するために使うハンドセットではなく、両手が常に空く状態になり、なおかつ常に耳から離れることのないヘッドセットを使用する方が適切だと考えられます。
 特に、今回の新幹線のように列車の運転本数も多く、一度事故や故障などが起きると情報量が膨大になり、指令員の負担が極端に増大するような場合には、指令員の負担を少しでも軽減でき、かつ適切に情報を処理して判断をすることが現在の方式よりも効果的だといえます。
 実際、過密ともいわれる航空管制においては、管制官はヘッドセットを使って常に航空機からの送信を傍受しています。
 さらに、異常事態が起きた時に、指令長が常に情報を把握する必要があります。そこで、輸送指令全体で情報を共有できるシステムに変えることが必要だといえます。そのために、指令員の操作一つで現場とのやりとりを誰もが聞くことができるように、スピーカーから現場と指令員の通話を流すこと方法が考えられます。こうすることで、指令長は指令員の作業に割り込むことなく状況を把握して、適切な判断や指示を指令員に与えることも可能になるでしょう。
 いずれにしても、今回のような一歩間違えれば大事故に繋がる重大インシデントを契機に、これまでのシステムを大幅に見直すことも、同様の事故を防ぐために必要ではないかといえます。

【この項つづく】