《前回からのつづき》
踏切警報機も踏切遮断機もない第4種踏切をなくすべく、様々な取り組みが始まっています。
中にはAIを使った踏切を開発する動きもあるようですが、信号保安設備の保守管理に携わった元鉄道職員であり、更にかつてシステムエンジニアとして働いた経験を持つ筆者としては、これが踏切事故をなくす切り札になるとは考えられません。
そもそもAIはいまだ発展途上の技術であるとともに、何でもかんでもAI任せというのはいかがなものかと考えるからです。実際、AIによる自動運転技術を使った電気自動車が、AIの不備と自動運転技術を過信したことを起因とした死亡事故も発生しています。言い換えれば、AIは便利だが完璧ではなく、同時に人間はそれを過信して注意を疎かにしてしまう代物だといえるのです。
また、第4種踏切が設置されているのは、第1種踏切に切り替えるためのコストを捻出することが難しいためであり、AIのような最新技術を導入すれば、さらに設置に関わるコストを上昇させてしまうのは明らかだと考えます。
地方ローカル線を多く抱えるJR西日本は、第4種踏切に非常に簡便ながらも、事故防止に効果のある方法を開発しました。その名も「踏切ゲート-Lite」というもので、第4種踏切に手動式の遮断桿を設置するというものです。
強化プラスチックでできた遮断桿は、通常は下りた状態になっています。そして、人が踏切を通行しようとするときには、この遮断桿を手で持ち上げてから通り、通った後は遮断桿は自動的にもとに戻って下りた状態になるというものです。つまり、踏切の遮断桿は常に下りている状態なので、人は不用意に線路内に入ることができないという、逆の発想によって歩行者の安全を確保しようとするものなのです。
この非常に簡易な設備は設置費用も安価ですが、なにより踏切事故を防ぐ効果も高いようで、実際に設置後は事故が起きていないということです。
安価で導入でき、保守にかかるコストも最小限に抑えられながら、事故を防ぐ効果を期待できるこの手動式遮断機は、地方の鉄道にとって導入しやすいものといえるでしょう。
しかしながら、筆者はこれで十分だとは考えていません。もちろん、開発したJR西日本も、同様に完全だとは考えていないことでしょう。例えば、列車が接近しているかを確認してから踏切を渡ることを理解することが難しい子どもが、安易にこの遮断機を開けて線路内に侵入することは十分に考えられます。ですから、遮断機だけではなく、警報音を鳴らしたり、できれば警告灯を明滅させる踏切警報機を設置することが望ましいといえます。
こう書くと、「だったら、第1種踏切にすればいいではないか」「せっかくコストを抑えたのに、踏切警報機を設置しては費用が高く付いてしまうではないか」と考える方もおられるでしょう。
横須賀線田浦駅から在日米海軍横須賀基地へ延びていた専用線上に設置されていた踏切。踏切警報機は設置されているが、よく見ると踏切遮断機はない。周りは倉庫だけの港湾地区で、一般人の通行が見られない場所だったが、やはり踏切遮断機がないと列車との接触の危険がある。もっとも、筆者がこの専用線を担当していた当時は、ほとんど列車の設定はなく単に線路を維持していただけに近かった。それでも、このような第3種踏切を維持するためには相応のコストがかかるが、米軍という巨大な組織だから可能だったと言える。(横須賀線田浦駅・在日米海軍横須賀海軍施設専用線 1992年頃 筆者撮影)
筆者は、第1種踏切のように、軌道回路に連動するような高価なシステムではなく、可能な限りコストを抑えた簡易的なものを提唱したいと考えています。
例えば、軌道の傍に列車が通過することを検知するセンサーを設置し、このセンサーが反応すると踏切に設置されている警報機が作動するというものです。センサーから警報機までは無線で制御信号を送る方法が考えられるでしょう。もしかすると、有線の方が確実に検知信号を送ることができると思います。
そして、センサーからの検知信号を受信した警報機は、警報音を鳴らしたり、警告灯を明滅させたりします。この警報機は、従来からある鉄道用に特化した機器を使うのではなく、可能な限り一般に使われているものを活用することで、警報器自体のコストをおさえることができるでしょう。警告灯は、工事用に使われる簡易信号機を改良することも考えられます。
この方法だと、列車の通過をセンサーで検知し、それを直接警報機に検知信号を送るので、わざわざ軌道回路を介在させる必要はなくなります。そのため、機器のコストだけではなく、軌道回路を複雑な変更をする必要がないので、工事費自体も安価に抑えることが可能になると考えられるのです。
《次回へつづく》
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