旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

もう一つの鉄道員 ~影で「安全輸送」を支えた地上勤務の鉄道員~ 第一章・その14「交流20000Vに触ると・・・」【後編】

◆交流20000Vに触ると…【後編】

 前回までは...blog.railroad-traveler.info  先輩たちが持ってきたのが、グラスファイバー製の梯子だった。
「これを使わんと、間違いなく感電しおるけんな」
 そういって、梯子を架線に立てかけた。
「さあ、誰か触る人いおらんか?」
 先輩はニヤニヤしながら、私たちにけしかけてくる。そうはいっても、そんな恐ろしいこと、いくらやんちゃな実習生でも進んで手をあげる者がいなかった。まあ、その怖い気持ちはわかるけどね。
 なかなか手をあげないものだから、では見本を見せようともう一人の若い先輩にいって梯子を登って見せることに。スタスタと軽快に梯子に登るやいなや、まるで何かのゲームでもするかのように架線に触って、ニコニコしながら降りてきた。
 その姿に、実習生はみな「おお~」と感嘆する声が起きた。
 さあこうなると、実習生もやらないわけにはいかない。といっても、先輩が実演して見せてくれて安全だと分かっていても、なかなか真似をするのは容易ではなく度胸のいるものだ。
 すると、「渡邊、お前やってみろよ」という同期の声。
 おいおい、そういう嫌な役回りをすぐ人に振るなよ!
 そんな恨み節の一つも言いたかったが、構うことなく同期は拍手、先輩は笑顔で手招きするからやらないわけにはいかなくなってしまった。まあ、電気の知識は一応持っているし、架線だけ触るのならば感電することはないだろうということは分かっていた。こうなりゃぁやるしかない!

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 私は先輩が支えてくれている梯子を登っていき、目の前に架線がある高さまでいくと、思い切って架線を握った。電気が流れているのか?と思うほど何も起きなかった。
 ところで、この梯子を登ってみて気付いたことが一つあった。
 それは、『とにかく高い!』。
 どのくらいの高さかというとレール面から約4.5メートル。よく、踏切で見かける『高さ4.5m』という制限表示のワイヤーを見かけるが、あの高さなのだ。場所にもよるが、砕石をたくさん盛った本線になると、地上面からレール面まで高いところでは50センチメートルもあるから、合わせて5メートルもの高さがあるから見晴らしはいい。でも、下を見るとかなりの高さに軽い恐怖感も覚えたものだ。

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博多駅場内へ進入する下関行き普通列車。線路面からパンタグラフに電気を送るトロリ線まで高さは4m以上ある。九州島内は交流20000Vなので、トロリ線とメッセンジャーを吊すビームやそれを支える架線柱には絶縁のための碍子がついている。

 2万ボルトの電気が流れる架線を触ると、そこからゆっくり下りていって体験は終了。私が感電しないのを見た同期は、それじゃあとばかりに梯子に登り始めた。まったく、私は実験台か?なんて思うのも束の間、架線に恐る恐る手を近づけていったおかげで、微かに「ビリビリ」という音が聞こえてきたと思ったら、その同期は感電してしまった。
 感電といっても静電気ほどの痺れを感じる程度だったが、やはりその感覚にはビックリしていた。
「あ~、誘導おこしちょるな」
 先輩は苦笑いしながらいっていた。
 後で説明を聞くと、電圧が2万ボルトにもなるといくら地上との間を電気が流れないように絶縁していても、人間の体は水分を含んでいる上に電気がない0ボルトの状態なので、その電位差(電圧の差)はかなり大きいのでゆっくり近づけると静電気のような電気が生じるとか。そういうことは先に言ってほしいよなあ。
 ともあれ、直流電化では1500ボルトなのでこうした事は起きないそうだ。
 どちらにしても、この時の体験はこれ一回きりだとその時は思っていたが、その2か月後には私自身がこれを生業にするとは思いもしなかった。本当に、先のことというのはわからないものだ。