旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

「のぞみ34号」重大インシデントについて元鉄道マンの考察と提言(6)

2.否めない技術の「劣化」【2】

 次に車両の検査についても考察していきます。
 鉄道車両は一定の周期または期間ごとに所定の検査をすることが義務づけられています。中でも自動車の車検に相当する「全般検査」は車両を部品単位にまで分解し検査をする、文字通りバラバラにするオーバーホール検査となります。
 実際に全般検査に携わった経験からいえることは、この検査で台車枠の欠陥ないし不具合が発見できなかったのか、ということです。
 鉄道車両の中でも走行にかかわる部分は安全運転をする上で非常に重要であり、検査も入念に行われなければならないのは言うまでもないでしょう。台車も車輪を外され、電動台車であればモーターも外され、ブレーキ装置も外されます。車軸を支える軸受けも分解されて清掃と油脂の交換、さらに必要であればベアリングも交換されます。実際に電気機関車の全般検査に携わったときに、軸受け部分はホコリ一つでも入ると走行中に軸焼けを起こしかねないので、非常に神経を遣ったものでした。
 当然、この検査では台車枠も検査されます。目視での検査もしますが、点検ハンマーを使った打音検査、最近では様々な機器を使った非破壊探傷検査も行われています。
 亀裂についてはこの点検で見つからなかったとのことですが、恐らくは急激に亀裂が進行したために全般検査でも、この日の仕業検査でも見つけることは困難だったのではないかと推察できます。

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▲全般検査または重要部検査における台車の検査光景の一例。汚れはもちろんだが塗装も剥がされて入念な検査を受ける。後ろに置かれている台車枠との違いに注目。

 しかしここで一つの疑問が出てきました。
 それは、目視検査で過剰に削った溶接部分を発見できなかったのか、ということです。
 目視検査は一見簡単なようですが、経験と技術がものをいう非常に高度な検査方法です。溶接部分を非常に丹念に見ていくことで、過剰に削られた部分を発見できた可能性はあります。しかしながら、このようなことができる技術者は今日ではほとんどいなくなってしまったようです。
 実際、鉄道現場で働く友人も、職人技をもったベテランの技術者がほとんどいなくなり、細かいミスや事故が多くなって不安だと話してくれました。
 それでも、「過剰に削った溶接部分を目で見るだけで見つけるなんて、そんなことできるのか?」と思われる方もいらっしゃるかもしてません。確かに素人目にはそのように思っても不思議ではないでしょう。
 しかし、職人技をもった技術者は、それをいとも簡単に見破ることができてしまいます。

 その例として、既に他界している私の父の技を一例として挙げておきます。私の父は溶接などを専門にする工場設備の技術者でしたが、生前、父が勤める工場へアルバイトに行ったときに、ある部品の平面部分をグラインダーで削ったところ、その部品を一目見て「削りすぎだ!」と叱られました。
 このことからも、経験豊かな職人技をもった技術者であれば、過剰に削られた溶接部分を見つけることも可能だったといえます。

 確かに技術の発展とともに、非破壊探傷検査など非常に優れた検査機器が開発され、車両の検査でも大いに活用されています。もちろん、こうした機器を活用することは悪いことではありません。人間の目では見えない微細な傷を発見するのには頼れる存在です。
 しかしながら、それらの検査機器は所詮は機械です。その機械を扱うのは人間なので、機器の出した検査結果がすべてというのはあまりに機械に頼りすぎですし、検査機器の能力にも限界があります。
 そうした限界をカバーするのが、人間のもつ五感を使った検査だといえます。無論、その方法は完璧とはいえないまでも、常に安全を最優先させるという危機感をもって臨むことで、そうしたエラーもカバーできるでしょうし、多くの技術者がそのような技をもつことで、より確実なものになると考えられます。