旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

悲運の貨車 奇抜な発想で複合一貫輸送を目指した両用貨車・ワ100【3】

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《前回のつづきから》

 

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 1992年に落成したワ100形は、翌1993年から東海道本線東京貨物ターミナル駅西湘貨物駅間で試験運用が始められました。実際の試験では、営業運用に入ることを想定して、車体部分となるアルミバンボディをトレーラートラクターによって牽かれ、そこから鉄道モードへと変換する作業も組み入れられていました。

 トレーラートラクターに牽かれてきたワ100形の車体部分は、併用軌道となっている荷役線に停車し、台車を装着した「アダプターフレーム」を入れるために後輪を空気ばねで上昇させます。そして、「アダプターフレーム」を車体部に差し込んで接続すると、トレーラートラクターから切り離されます。トレーラートラクターが切り離された部分に、連接構造となる「アダプターフレーム」を装着させると、今度は2台目の車体部分がトレーラートラクターに牽かれて同じ併用軌道上に停車されます。続けて、その2台目の車体部分は1台目に接続されている連接構造の「アダプターフレーム」に接続させ、トレーラートラクターを切り離し、その部分に「アダプターフレーム」を装着させていく、という作業を繰り返して、最後に車端部となる「アダプターフレーム」を接続させるというものでした。

 確かに、この方法ではフォークリフトトップリフターといった荷役機械は必要とせず、荷役機械やそれを操縦するオペレーターのコストは削減できると考えられました。しかし、実際の荷役作業ではこのような複雑な作業を繰り返さなければならず、荷役時間の短縮には繋がりにくかったのです。そして、ワ100形のために併用軌道の荷役線を設置しなければならないなど、荷役機械などのコストは別にかかることも判り、結局のところ20ftや30ftといった大型コンテナを使ったほうが、荷役時間やコスト面でも有利だと判定されたのです。

 

ワ100形最大の特徴は、自動車のセミトレーラーを鉄道車両の台車に載せて貨車にするという点だろう。コキ100系で実用化したFT1形台車に改良を加え、ブレーキなどをユニット化して省スペースを実現させたFT1A形は、台車枠を通常の黒やグレーではなく、鮮やかな青色で塗装され、連結器などを抱合した「アダプターユニット」と一体的な印象を与えた。このアダプターユニットにセミトレーラを接続・積載することで、道路・鉄道両用の車両にし、荷役機械やそれを操作する人員を省略し、荷役時間を大幅に短縮させることを狙ったが、実際にはアダプターユニットとセミトレーラーの接続は煩雑な作業になり、専用の地上設備も必要になることから、結局は試運転が行われただけに止まり、実用化にはほど遠いといえた。(パブリックドメイン

 

 また、コキ100系の増備が進むに連れ、限定的ではあるもののISO規格海上コンテナを鉄道で輸送することが可能になっていきました。車扱貨物のコンテナへの転換も進められ、特にタンクコンテナはISO規格のものが鉄道で輸送されるようになると、トップリフターといった大型荷役機械の配備が進められ、ワ100形の荷役機械が不要で省力化できるというメリットも、煩雑な荷役作業を必要とすることもあって、その優位性はあまり大きくなくなってしまいました。

 加えて、バブル経済の崩壊による鉄道貨物の輸送量の低下は、トラック輸送を担うドライバー不足も解消されつつあった中で、セミトレーラーのバンボディーをそのまま鉄道車両として運用するアイディアも、その需要が見込めなくなってしまいました。

 さらに、ワ100形はアイディアこそよかったものの、日本の法制度の前に困難が伴いました。そもそも、鉄道車両と自動車では、その前提となる制度が異なります。鉄道車両として運行するためにはその車籍を有する必要があり、そのための税金(固定資産税)が課税されます。一方、自動車として運行するためには車検登録が必要になり、ワ100形もその例外ではありませんでした。被けん引車両として登録し、ナンバープレートを付ける以上、自動車損害賠償責任保険自賠責保険、通称「強制保険」)に加入することが義務付けられ、登録時には自動車重量税が課税されます。そして、毎年地方税である自動車税も課税されます。

 そして、維持管理にも鉄道車両としての検査である全般検査や重要部検査など、法定検査を受けて整備しなければなりません。それとともに、ナンバープレートをつけた自動車としての車検や1年点検といった検査も義務付けられるので、検査にかかるコストも増大するなど、運用や維持の面で不利になるのでした。

 こうした鉄道車両としても、自動車としても運用ができる車両など、日本の法令では想定していなかったこととはいえ、アイディアはよくても法令面で課題が山積していたため、欧米のような鉄道と道路のデュアルモードで運用できるワ100形の実用化は、これらを解決しない限り不可能だったのです。

 結局ワ100形は、試験走行を終えるとそのまま使われることなく、川崎貨物駅構内に他に試作されながら実用化に至らなかったコキ70形などとともに留置され、2002年に試作された3両すべての車籍が抹消され、形式消滅になりました。1992年に落成して以来、実際に走行したのは1993年から1996年までの僅か3年、長期間留置されている期間の方が長く、車籍を維持したのも9年ほどと短命でした。

 

鉄道貨物輸送がコンテナ輸送にほぼ一本化されると、ワ100形のような貨車が入り込む余地はなくなってしまったといってもよい。時代が進むにつれて、セミトレーラーのアルミバンが担っていた貨物を、これに代わって鉄道へ移転しやすいようにJR貨物はウィングドアをもつ48A形を開発・投入したのを皮切りに、多くの30フィート級20トンコンテナを次々と導入していった。(©高頭 稔, CC BY-SA 4.0, 出典:Wikimedia Commons)

 

 鉄道と道路の両方で運用でき、しかも荷役機械とそのオペレータを必要とせず、荷役そのものを簡素化することを狙ったものの、実際には目論見通りに荷役時間を短縮する頃ができず、法令面で二重に課税されたり検査もそれぞれで受検しなければならないなど、課題山積となってしまった悲運のワ100形。それでも、鉄道車両の開発史の中で、従来の考え方に囚われない奇抜な発想と、その開発に挑戦したことは、その名を確実に残したといえるでしょう。

 

 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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