旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

悲運のハイパワー機 期待を一身に背負ったはずが【2】

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 国鉄時代設計のリピートオーダー機で当座をしのぐ間、本命ともいえる機関車の開発を続けることになります。
 その目標性能は1600トンの重量を牽いて高速で走ることができる性能と、25‰の坂で1100トンの列車を0km/hから引き出すことができるパワーをもつことでした。

前回までは・・・

 この25‰の勾配という数字、日常生活ではあまり使われない‰(パーミル)という単位は施設系統の職員はよく使っています。千分率という単位で、似たようなものに百分率というのがあります。ヒャクブンリツ?という方もいらっしゃるかもしれませんが、簡単にいえば%(パーセント)です。これなら、日常生活の中でもよく目にする単位です。

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山陽本線の隘路である瀬野-八本松間の峠を重量のある貨物列車が上るときには、必ず後押しをする補助機関車の連結が欠かせない。©spaceaero2(Wikimediaより)

 百分率は1を100で割った割合を表しています。千分率は1を1000で割った割合を表す単位です。鉄道の勾配を示す単位としての‰は、1000mを進むとどのくらいの高さに登るかを表しています。25‰は1000m進んで25mを登った、ということになるのです。
 これを、角度にすると約1.5度。
 え?たったの1.5度??
 と思われるかも知れませんが、鉄の車輪と鉄のレールとの間に生じる摩擦で走る鉄道車両にとって、この1.5度という角度は意外にも急な角度なのです。
 こうした目標性能が決まり、いよいよ新型機関車の開発が行われました。直流機関車は日立製作所が、交直両用機関車は川崎重工三菱電機が主契約者となります。どちらも国鉄時代から機関車をつくってきた実績があります。
 これらの会社は、VVVFインバーター制御装置と三相かご形誘導電動機という当時の最新技術、言い換えれば電車では既に実用化された技術を採り入れることで、JR貨物が要求する目標性能に達する機関車を開発しました。
 こうして、1990年に完成したのが直流機がEF200形、交直両用機がEF500形です。
 どちらも出力1000kWの主電動機を装備し、機関車全体の1時間定格出力6000kWというこれまでにないパワーを備えることができました。この出力であれば目標となる1600トン牽引も可能になり、コキ50000形貨車で組成された列車であれば最大で26両編成、約770mというとんでもない長さの列車でも引っ張ることができます。

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EF200形試作機である901号機。2016年に廃車後、現在は製造した日立製作所水戸事業所で登場時の姿で保存されている。© DAJF(Wikimediaより)

 この6000kWという出力は、従来の直流モーターでは不可能でした。当時最大の出力を誇ったEF66形でも3900kW、主電動機1個あたりの出力は650kWでした。開発当時は開発当時は狭軌鉄道としては世界最大の出力でしたが、言い換えれば従来の抵抗制御+直流電動機の組み合わせでの限界といえるでしょう。
 その限界を超える性能は、日進月歩のパワーエレクトロニクスの発達で、直流モーターよりもはるかに効率と出力に優れた交流モーターを鉄道車両に使えるようになったということです。
 こうして試作機である901号機は、川崎市にある新鶴見機関区に配置されて様々な試験を受けることになります。新しい技術を導入して、しかも国鉄時代には考えられなかったハイパワー機関車は、その能力は分かっていてもどんな課題が潜んでいるか分かりません。それ故、様々な条件の下での試験が繰り返されました。