旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

この1枚から H級機は良くも悪くも・・・【2】

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《前回のつづきから》

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 機関車が重連で牽く列車ではどうかというと、当然重量の嵩む機関車が2両も走るのですから、旅客会社は貨物会社にその分の線路使用料を請求することができます。ただでさえ安価に抑えられている線路使用料の中で、1列車で機関車2両分も請求できるのは、ある意味では美味しい存在です。逆に貨物会社の立場からすると、その分だけ持ち出しになるので負担の大きい存在だったのです。

 こうしたことから、恒常的に重連運用を組まざるを得ない機関車は、できるだけ早い時期に1両に集約する必要があったのです。そこで考えられたのが、強力な出力をもつ機関車1両で、重連運用を置き換えるというものでした。1990年に開発されたEF500がそれにあたりますが、6000kw/hという前代未聞のハイパワーは、理論上では確かに2両のED75を1両で賄うには十分でした。しかし、そのハイパワーは地上の電気設備が追いつかないなどの弊害が多く、旅客会社からは「使うのをやめてくれ」とまでいわれる始末でした。他にも技術的な課題を解決できず、開発を断念せざるを得なくなったのです。こうして、今しばらくはED75重連運用が残りました。

 そして、EF500の失敗の反省から、出力を適正化させて3400/4000kw/h程度に抑え、かつ軸重を極端に増大させずに粘着性能を確保する必要から、同輪軸を8個備えたH級機とし、2車体で1両というEH10以来の機関車であるEH500を実用化したのでした。

 これに反発したのは旅客会社でした。それはそうでしょう、ただでさえ安価な線路使用料であるのに、見た目は重連なのに「いえ、車体は2つあるけど、これで1両です」といわれ、機関車1両分の線路使用料した払ってもらえないのではたまったものではありません。

 EH500の導入に際しては、貨物会社と旅客会社の間で相当揉めたと聞いています。少しでも支払いを減らしたい貨物会社と、少しでも使用量を取りたい旅客会社の間で綱引きとは、そのルーツを辿れば同じ組織であったとは思えないほど、両者の間は「まったくの他人」にまでなっていたのでした。

 結局、同じ機関車でも、H級機の線路使用料は別に設定されたのかは分かりませんが、落とし所を見つけて落ち着いたのかもしれません。

 これ以後、ED75ED79は恒常的に重連で運用されていましたが、EH500がこれに取って代わるようになります。EH500が増備されるとともに、ED75は徐々に淘汰されていきました。また、増備が進んで運用にも余裕が出てくると、黒磯以南でも運用されるようになり、隅田川新鶴見まで顔を出すようになりました。

 一方、中央東線の貨物列車も、EF64重連による運用が恒常的に行われていました。こちらも早晩、新型機に置き換える必要がありましたが、後継となる車両の開発は高直流機のあとに回されていたのでした。

 EH500の成功によって、これを直流専用機に設計を改めたのがEH200です。EH200の基本設計はEH500とほぼ共通でした。主電動機も525kwのFMT4を8基装備し、出力4,250kwを確保しています。最大では5,120kwとEF64重連と同じ出力も出すことができました。

 

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 こうして、恒常的に重連を組んで運用していた国鉄形電機は、新しいH級機に置換えられていきました。

 ところが、貨物会社にとっては線路使用料を減らすことができ、しかも2両だったものが1両に集約できたことで、運用コストを大幅に軽減することができたH級機でしたが、実は現場レベルでは問題を抱えていました。

 それは、これらの機関車を留置する機関区などの運転区所で、「やってきたはいいけど、どこに置いておこうか」ということでした。というのも、それまではどんなに大型でもF級機でした。例えばEF64であれば、1000番代でも18,600mmです。大抵の運転区所はこのF旧機の長さに合わせて留置線を配置していました。ところが、H級機が台頭してくるに従って、次の運用まで留置する場所の確保が難しくなってしまったのでした。

 EH200であれば25,000mmにもなります。これを2両留置してしまうと、F級機なら3両も留置できたところに、たったの2両しか置くことができず、F級機が溢れてしまいます。この溢れたF級機を他の留置線に持っていくと、今度はここから機関車が溢れてしまうといったように、運転区所で車両誘導を担当する職員の悩みのタネとなってしまったのでした。

 実際、新鶴見機関区で検修助役からお話を聞く開会があり、新鶴見区はEH500EH200の両方のH級機を扱うようになったのですが、もともとがEF65などのF級機の規格で線路を配置しているので、H級機は長くなった分だけ留置できる車両の数が減ってしまい、非常に苦労しているということでした。この話を聞く分では、EH500EH200を扱う運転区所や駅などでは、同じような問題を抱えているのでしょう。おそらくは筆者が勤務した門司機関区でも、こうしたH級機の留置には苦労しているのかもしれません。

 このように、F級機関車2両を1両にまとめたH級機関車は、運用コストを軽減するなどコスト面では大いに貢献したといえます。しかしながら、運用の実務面では一定の課題を突きつけた形になってしまいました。H級機は大型であるがゆえに良い面もあり、逆に悪い面もある、そういったことを背負った機関車であるといえるでしょう。

 

 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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