旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

九州の赤い電機 その終焉の具体化とEF510【2】

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《前回からのつづき》

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 確かにJR貨物にとって、手持ちの機関車を遣り繰りすることで老朽機を置き換えたほうが財政的なメリットは大きいでしょう。しかし富山区のEF510は、日本海縦貫線という長距離を走り抜け、日本海沿岸という環境は吹き付ける海風に晒されるなど、過酷な運用を連日のようにこなしていることから、車齢こそは若いものの老朽化の進み方は比較的早くなっていると思われます。EF66EF65よりも後に登場したにもかかわらず、老朽化が早く進行したため一足先に淘汰の対象になったのと同じ構図です。そうなると、受け入れ側の門司機関区や九州支社としては、お古のEF510を受け入れるのもあまり面白いことではないでしょう。

 また、EH500日本海縦貫線に進出させることは、北海道新幹線の開業によって運用に余裕が出ているので物理的には可能でも、仙台所属のまま日本海側の運用に就かせるのはあまり現実的ではないといえます。

 日本海縦貫線で運用中に万一故障などが起きた場合、EH500の検修ができる区所へ回送しなければなりません。JR貨物で日常的にEH500の検修ができるのは、仙台と門司の二箇所のみで、富山区ではそれは難しいのが現実です。同じ交直流機なのだからできるのではという疑問を持たれる方もいらっしゃると思いますが、機関車というのは非常に高度な機器の集まりで、車種ごとに装着される部品も異なるので、それらの部品の在庫を抱え、そしてその機関車に熟知した検修陣がいる区所でなければ補修は難しいのです。そのため、検修陣は自らの区所に配置されている車両に関して、知識と技術力をもって責任を負っているので、その車種が配置されていない他の区所ではそうした作業は応急処置以外はほぼ不可能といっていいでしょう。

 加えて、EH500北海道新幹線開業前は、運用の北限は北海道の五稜郭、南限は新鶴見でした。富山区のEF510と同様に、長距離を走行する運用を連日のようにこなしてきたので、いくら運用に余裕ができたとはいえ、さらに長距離となる日本海縦貫線に回せば、車両の老朽化をさらに進めてしまうことは明白です。老朽取替の時期を早めてしまっては、EF510よりも高価なEH500を早い時期に取替増備しなければならなくなり、財政的なデメリットが増てしまうことが考えられます。

 

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6000kWという空前の高出力機であったEF500は、その出力がかえって仇になり、多くの課題を解決できず、また輸送実態に合わないことから試作機のみに終わった。投入する線区の輸送実態に適合させ、同時に常態化していた重連運転を解消することを目指して開発されたのがEH500である。2021年現在、仙台総合鉄道部と門司機関区のみに配置されているが、仙台配置の車両を日本海縦貫線にも進出させる予想もあった。(EH500-2〔仙貨〕 新鶴見信号場 筆者撮影)

 

 それを抑えるために、途中駅(例えば新潟や富山など)で機関車の付替えも考えられますが、そうした手間をこれまで減らしてきたことで、運転時分を短縮させ貨物のリードタイムを短くし、多くの荷主を取り戻してきた努力に逆行してしまいます。

 EF510の増備なら、EH500ほどの値段にはならなず、EH500の老朽化の進む早さを抑えることができ、機関車の付け替えなど小手先の手段で車両数を抑える必要もありません。九州用のEF510を新造するのは、ある意味当然の選択だといえるでしょう。

 さて、九州用に増備されるEF510は300番代に区分されることが発表されています。この300番代という数字は、おそらくは関門用に製造されたEF81 300番代を意識したものと推測されます。

 EF510JR貨物がEF81の後継として開発した交直流両用電気機関車で、基本的な設計は既に実用化されていたEF210をもとにしています。EF510以前に交直流機としてEF500が開発されていましたが、2600トン列車牽引という途方も無い超重量列車の運転を想定していたため、出力6000kWという我が国の電気機関車史上最強の性能をもたされました。しかしその最強の出力が仇になり、機関車が最大出力を出そうとすると地上の変電設備が追いつかず、架線の電圧降下を招いたり、変電所自体が異常電流を検知して送電を止めてしまったりと、多くの問題が山積しました。加えて最新のVVVFインバータ制御を採用したものの、それだけ大出力になれば電気機器から発する電磁波が信号設備に悪影響を及ぼす「誘導障害」を起こし、結局は使い物にならないと判断されて量産には至りませんでした。*1

 その反省を踏まえて開発されたのがEF510で、制御装置はVVVFインバータを採用し、主電動機はかご形三相誘導電動機と今日では当たり前の方式ですが、出力自体は3390kWと、EF66の3900kWに比べて若干控えめになりました。もっとも、EF66も連続で最大出力で運転することはほとんどないので、妥当な性能と言えるでしょう。

 

《次回へつづく》

 

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*1:2600トンという列車重量は、12フィート5トン積みコンテナを満載したコキ車26両編成となり、編成長は520mにも及ぶ長大列車になってしまう。このような編成の列車を運行するには、貨物駅での発着線はもちろん、途中で退避する駅の施設自体を改良しなければならない。こうした改良工事を行うには、旅客会社の同意を得なければならず、加えてバブル経済崩壊による景気後退の環境において、2600トン列車の運行自体が非現実的とされるようになったこと、そもそも日本海縦貫線でそのような超重量列車を必要としなかったことから、過大な性能であると判断されて量産には至らなかった。