旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

「のぞみ34号」重大インシデントについて元鉄道マンの考察と提言(8)

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 最後に、今回のように一歩間違えれば台車枠折損による脱線事故、最悪は脱線転覆事故を起こす可能性があった重大インシデントを二度と起こさないための対策について提言したいと思います。
 現在、重大インシデントについては国の運輸安全委員会が事故調査中ですのでその結果は出ていませんが、これまで報道資料などでわかっている範囲の情報を基に、筆者の経験と知識で次の4点を提言します。

1.社員の教育体系の根本的な見直し
2.列車無線システムの改良
3.車両検修体制の見直し
4.人事体系の見直し

 

1.社員の教育体系の見直し【1】
 安全を最優先させるためには、そこで携わる人間の意識がどこに向いているか、ということで決まるといってもいいでしょう。そのためには、やはり社員教育でどのようなことをしているかが重要だと考えられます。利益を優先するように教育されれば思考の方向はそちらへ向いてしまいますし、利益よりも顧客の満足度を犠牲にしてまでも安全を優先させるように教育されていれば、当然人の意識はそちらへと向くということです。
 今回の重大インシデントJR西日本管内で起きました(最終的にはJR東海名古屋駅で起きていますが、その発端は岡山駅でした)。JR西日本は、残念ながら1991年の信楽高原鉄道列車衝突事故や2007年の福知山線脱線事故を起こしています。特に後者は国鉄五大事故に数えられる桜木町事件に次ぐ犠牲者を出しています。
 このような大きな事故を起こしているにもかかわらず、今回のような大惨事につながりかねない重大インシデントを起こしているのは、鉄道会社として非常に憂慮すべき事だと言えます。繰り返される事故・重大インシデントは、まさに会社としての意識が安全輸送に向いていない証左だともいえるでしょう。

 そこで、社員の教育・訓練体系を見直すことが必要だと考えられます。
 特に新入社員に対する基礎教育のカリキュラムに、大事故だけでも取り上げた事故の歴史を学ぶカリキュラムを組むことで、安全に対する意識を少しでも向上することができます。事故の状況、原因、その後の対策を時間をかけて学ぶことは意味のあるものだといえます。また、類似の事故を起こさないためにできることは何かを考えることも非常に効果のある学習だと考えられます。さらにこの教育カリキュラムは、将来配属されるであろう職種(運転、営業、技術)にかかわらず、すべての者が受ける事でその効果を上げることが期待できます。

 初任者の集合教育を前期課程と後期課程に分けることも必要であると考えられます。前期課程は社会人としての心得はもちろんですが、鉄道という特殊な職種に就く者に共通する知識や技能を身につける課程とします。そして、後期課程では配属される職種ごとに分かれた専門課程とし、運転、営業、技術それぞれ分かれた系統的な教育カリキュラムにすることです。
 運転系統であればシミュレーター訓練を行うことも効果的でしょう。営業系統でも、モックアップを使った実地訓練が考えられます。技術系統では営業運転に使われている車両の訓練機材を活用した訓練や、実際の線路を模した訓練線での実地訓練での教育課程が考えられます。さらに、これらのカリキュラムでは、必ず異常時の対応訓練を組み込むことで、実際に配属されて異常時に遭遇したときに冷静かつ適切な判断と行動をすることが期待できるでしょう。