旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

悲運のハイパワー機 期待を一身に背負ったはずが【1】

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「将来、ドライバーになったらこれを運転することになる」
 私が鉄道マンになった頃、その機関車を目の前にして先輩たちからそういわれました。
 真新しい車体は眩しいくらいに輝いていて、それまでの国鉄形とは異なり直線的でスマートなデザイン、そして鮮やかなブルーとホワイトグレーという塗装は、まさしくこれからの日本の物流の一端を担うには頼もしい存在だったといえるでしょう。
 かくいう私自身、輸送や営業ではなく技術系統の鉄道マンですら、その洗練されたデザインと、飛び抜けた性能にある種の期待をもっていました。
 それだけ、多くの人の期待を背負った機関車だったといえるでしょう。
 しかし、いつの世にも多くの期待を一身に背負いながらも、「期待とは裏腹に」という言葉の通り、そのもてる才能を生かし切れず期待通りの活躍ができないまま埋没していくなんてことがあります。
 このEF200形電機機関車も、多くの期待を受け、そしてその期待に応える性能を与えられながらも、周りの環境がそれを許されなかったが故に、もてる性能を発揮する機会に恵まれずに、性能が劣る多の機関車と同じ貨物列車を牽き続けていきました。

 EF200形電機機関車が産声を上げたのは国鉄が分割民営化されてから6年目の1990年(平成2年)のことでした。
 当時はバブル経済の絶頂期。景気は拡大し続けていて、年々貨物の輸送量は増える一方でした。貨物の輸送量は増えたとなると、それに応えるためには列車の運転本数を増やす方法が一般的です。
 しかし、JR貨物はあくまでも旅客会社の線路を借りて列車を運転する身なので、いくら需要があるからといっても簡単に貨物列車を増発することはできません。
 そこで、列車の運転本数を増やすことなく、旺盛な需要に応えるためにはある方法が効果的だとなりました。
 それは、同じ列車を運転するのであれば、1列車あたりの輸送量を増強するということです。簡単に言えば、1列車で連結する貨車の数を増やしてこれに対応していこうということです。

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 分割民営化直後、貨物列車は最大でも1000トンでした。1000トンといってもあまりピンとこないかも知れません。簡単にいうと、汎用性が高く最も輸送効率の高いとされている12フィート5トンコンテナ5個積みのコキ50000形で運転される列車であれば1両あたり50トンなので、単純に計算をするとざっと20両編成です。
 この列車に連結される貨車を増やせばたくさんの貨物を運ぶことができますが、いくつかの問題がありました。連結される貨車が増えるということは、列車の長さもそれだけ長くなります。それに対応できる貨物駅などの地上設備を整備する必要がありますが、これは列車を限定し停車駅も絞ることでなんとか可能でした。しかしもう一つの課題は、それだけの重量がある列車を牽くことができる性能をもつ機関車がありませんでした。
 この当時、JR貨物がもつ電気機関車で、最も高いパワーをもつのはEF66形でした。EF66形は国鉄時代に高速貨物列車を牽くべく開発された機関車で、1000トンの列車を100km/hで運転できる性能をもっていました。登場当時は高速貨物列車用に開発された10000系貨車を牽いていましたが、後にコンテナ貨物列車、やがては寝台特急の先頭にも立ちました。
 JR貨物にとって、このEF66形をとても重宝したようで、新しい強力な機関車を開発するまでのつなぎとして、国鉄時代の設計をもとに改良を加えた100番台も製作し、列車の増発に対応しました。とはいえ、これは根本的な解決には至っていません。やはり、長大で重量のある貨物列車を牽くために、高性能で強力な機関車を欲していました。