旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

もう一つの鉄道員 ~影で「安全輸送」を支えた地上勤務の鉄道員~ 第二章 見えざる「安全輸送を支える」仕事・線路際で働く鉄道マンの持ち物【中編】

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線路際で働く鉄道マンの持ち物【中編】

 さて、線路に出る鉄道マンに共通している物、というより身につけなければならない物といえば何を思い浮かべるだろうか。
 まずはあの黄色いヘルメットだ。
 正確には「保護帽」という名前らしく、色々な形の物がある。


前回までは 

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 よく見かけるのはMP形と呼ばれる、頭をスッポリと覆う丸形のヘルメットで、私が支給されたのはこれだった。
 実はこのヘルメットにもいろいろなタイプや形の物があって、私が勤めていた電気区では「耐電圧・飛来落下物用」というヘルメットを使っていた。読んで字の如く、高圧電流を通さず、しかもどこからともなく飛んできたり落ちてきたりした物の衝撃にも耐えて頭を護ってくれるという優れもの(?)だ。

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 このヘルメットは基本的には「黄色」を使っていた。基本的と書いたのは、例外もあるということ。稀に「白色」のヘルメットを被っている鉄道マンを見かけると思うが、「白色」を使うことが許されているのは二つの職種だけ。一つは駅の管理職で助役以上の人。もう一つは、私が退職した後に制定されたもので、鉄道会社に所属しない関連会社などの社員で、列車見張員の資格を持っていて見張業務に就く人だ。

 それに、ヘルメットに巻かれている帯の色と数も決まっていた。
 赤色は駅、青色は機関区や車両所といった車両系統、緑色は保線区や建築区といった施設系統、そして橙色は電力区や信号通信区といった電気系統だった。もちろん、私は電気系統なので帯の色は橙色。
 そして、帯の本数は太い帯が一本は係職か指導職で太い帯一本の上に細い帯が一本は主任。さらに細い帯一本を足すと助役。そして、太い帯一本の上に細い帯三本は区長や駅長といった現場長だった。

f:id:norichika583:20180710220857j:plain▲横浜羽沢駅構内で作業をする電気区の技術者。写真右下に写っている人のヘルメットの帯色がオレンジであることから電気系統に従事する職員で、帯の数から主任ということが読み取れる。恐らく次の作業の指示なのだろうか、鉄塔の方を指さしている。鉄塔にも人の姿があるが、この後、鉄塔の一番上にある投光器の修繕へ向かう途中、地上から10mの高さにある踊り場についたところ。鉄塔後方には東海道貨物線の線路と、第三京浜羽沢入口の道路が見える。

 ちょうど皆さんがよく駅で見かける駅員の帽子で、赤い帯に金色の筋が入った駅長らしき人を見かけると思うが、そのヘルメット版といったところだ。とにかく、現場で仕事をしている時にも、その人の職名が分かり指揮命令系統をはっきりさせているのだから、鉄道ってある意味階級社会だといえる。いま思えば、こういうキビシイ世界でよくもまあ務まったものだ。

 ヘルメットは線路に出る時は必ず被らなければならない。他にも、身につけなければならないものが合った。
 それが「安全チョッキ」といわれるものだ。
 「安全ベスト」とか「反射ベスト」とも呼ばれているもので、よく工事現場で働く人が着ている、メッシュのベストに反射材を貼り付けたあれだ。鉄道では黄色のものが支給されるが、遠くからでも見えるようにすることと、黄色は「警戒色」といって注意喚起の色と指定されている。
 この安全チョッキ、秋から冬にかけては気にならなかったが、夏になると着ているだけで暑くて仕方がない。線路上に出る時には必ず着なければならなかったから、暑いからといって脱ぐわけにもいかず、とにかく難儀したものだった。

 もう一つは「警笛」だ。いわゆるホイッスルで、学校の体育の授業で先生が吹くあの笛だった。ヘルメットの片方にホルダーが引っかけてあって、必要な時は笛を引き出して使う。急に列車見張をする時や、何らかの危険が迫っていて警告をする時に使った。
 そして、最後は「鍵」だ。この鍵については保安上の理由などなど、いまも負っている守秘義務もあるので残念ながら細かく紹介はできないが、とにかくこれもないと仕事にならなかった。