2つの事故は離陸上昇中に起きた
飛行中に尾部が極端に下がり、機首が上がってしまうという特性は、飛行機としては好ましくありません。特に低空を上昇中にこのような癖のために極端な機首上げの姿勢になれば、飛行機は速度を落としてしまい翼に揚力が与えられず、空中に留まることができなくなってしまいます。いわゆる「失速」の状態、ストールです。
この状態にならないように、ボーイング737MAXの特性に対してパイロットの操縦を手助けするのがMCASの役目でした。ところが、立て続けに起きた2件の墜落事故は、このMCASが原因でないかとみられています。
それはどういうことなのでしょうか。
ライオンエア機もエチオピア航空機も、離陸して間もなく墜落しました。
離陸は飛行機にとって危険な時間帯です。滑走路ではエンジンを最大出力に近づけ加速し、翼に揚力が生まれるまでスピードを上げていきます。飛行機の機種にもよりますが、私たちがよく利用するジェット旅客機では離陸滑走では180ノット、時速に換算して約330km/hにまで加速していき、ようやく機首を上げて離陸していきます。この速さは、なんと東海道新幹線「のぞみ」の285km/hよりも速く、最速の東北新幹線「はやぶさ」の320km/hより僅かに速いという速度です。
▲離陸滑走では停止状態から180ノット(約330km/h)にまで一気に加速していく。その後、翼が揚力を得て上昇するがこの時にトラブルが起きると上昇するしかない。この速さは東北新幹線「はやぶさ」の最高速度320km/hに近いことからも、非常に速い速度であることがわかる。写真上は離陸するボーイング737-800旅客機(筆者撮影)、下は東北新幹線「はやぶさ」として走るE5系電車(©Nanashinodensyaku [CC BY-SA 4.0], via Wikimedia Commons)
そして、この速さになってようやく翼に揚力が生まれ、パイロットは操縦桿を引いて機首を上げていきます。そうすることで、機体は上昇の姿勢になり、エンジンの推力によって生み出された速度を増していきながら、あの大きな金属の塊が空中へと浮かんでいくのです。
ところが、このような速度で地上を滑走するので、離陸滑走中に何らかのトラブルがあると取り返しがつきません。上昇できなければ、滑走路の先にある障害物などに衝突し、機体はたちまち破壊されてしまいます。そのため、何かがあっても一定の速度である「離陸決心速度」を超えると、パイロットは何があっても機体を離陸させなければなりません。もちろん、そのまま引き返して安全に着陸できればいいのですが、上昇しきれず高度を稼げないまま操縦不能に陥れば、やはり飛行機は墜落してしまいます。
このように、離陸から上昇して一定の高度と速度になるまでは、飛行機にとっては非常に危険な時間帯なのです。
墜落事故の原因と目されるMCASというシステムとは
今回の2つの事故は、この離陸上昇中に機種が極端に上がることを防ぐためにMCASが作動したことから始まったと推測されています。そして、MCASは上昇中に機体に取り付けられたセンサーなどから得た情報をもとに、機体の上昇角度が上がりすぎていると判断し、機首下げ、つまり下降姿勢になるようにしたのです。
ところが、パイロットは離陸上昇中にもかかわらず、MCASが作動して飛行機が勝手に機首を下げる動作をしようとしたので、パイロットは飛行機を上昇させるために機首が上がるように操縦桿を手前に引きました。一度はパイロットの手動操縦で機首が上がって上昇に転じますが、再びMCASによって機首を下げられ、さらにパイロットが操縦桿を引いて・・・という通常では考えられない操縦操作が続いたのではないかという推測がされています。
実際、この推測を裏付けるものとして、Flightrader24に記録されているライオン・エア機とエチオピア航空機の飛行高度の記録では、離陸後に高度が上下に激しく揺れているという異常な飛行をしたことが窺える記録がされていました。
事故調査機関による公式な調査結果はまだ出ていませんが、これらのことから機体の異常な癖を自動的に補正し、パイロットの操縦を助けるためのMCASが、何らかの形で墜落事故に関係していると推測されます。
実際、事故後にボーイング社はMCASのソフトウェアをアップデートすると発表しています。このソフトウェアに不具合があったかについては公式な発表はされていませんが、事故につながる何らかのことがなければこの時期にソフトウェアをアップデートするというのは考えにくいことです。やはり、ソフトウェアに何らかの原因があったと考えるのが自然といえるでしょう。