旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

ボーイング737 MAX墜落が他人事ではないその理由【3】

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事故を起こした真犯人とされるMCAS

 ボーイング737MAXの墜落事故の原因が、MCASと呼ばれるシステムの不具合であり、さらにそのシステムのソフトウェアによるものだと仮定した場合、非常に危惧するべきものであると考えられます。そして、この手の不具合は、実のところ私たちの身の回りにも起こりうるといえるでしょう。

 MCASはセンサーから得た機体の仰角などの情報をもとに、機体を適切な角度に修正するように自動的に操縦翼面を動作させます。操縦翼面とは、飛行機の姿勢をコントロールするためのもので、水平尾翼にあるエレベーターや、垂直尾翼にあるラダーがそれです。そして、MCASが直接関係するのは機体の上下動を掌るエレベーターであり、今回の事故ではソフトウェアの不具合により、本来であれば正常な姿勢であるにもかかわらず、MCASがエレベーターのトリムを下げて機体を降下させようとしていたとされています。

実は身近なところに「システム」で動いている物がある

◎家電製品・・・炊飯器の場合

 非常に恐ろしいことですが、パイロットの意思とは関係なく、システムが勝手に不必要な操縦操作をしていたといえるのです。

 さて、私たちの身の回りには、このMCASと同じように、ソフトウェアによって制御している機器が数多くあります。

 はたして、それはどんなものでしょうか。

 家電製品の中には「コンピューター制御」とか、「マイコン搭載」と謳われている製品が数多くあります。これらは飛行機のような大規模なシステムではありませんが、やはりコンピューターに組み込まれたソフトウェアによって、細やかな制御を実現しているのです。

 例えば多くの炊飯器には、小型のコンピューターが装備されています。

 最近の炊飯器は非常に細かい設定が可能で、ふつうの白米だけでなく、お赤飯や炊き込みご飯をつくることもできます。それだけでなく、ご飯を硬めや柔らかめなどといった、食べる人の好みに合わせたものをつくることもできます。

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▲いまやどの家庭にもある電気炊飯器は、そのほとんどがコンピューターを搭載し、実装されたシステムによって、手軽に炊き上がったご飯の固さや、寿司飯、おこわ、炊き込みご飯など調理する方法によって最適な温度や時間をきめ細やかに調整できる。(Amazonより引用)

 

 これらは炊飯器にあるボタンを押して、メニューから選択することで設定できます。誰にでも手軽に、いろいろなご飯料理をつくることができるのは、非常に便利で重宝するものです。

 こうした細やかな設定を可能にしているのは、炊飯器に装備されている小型コンピューターに組み込まれたソフトウェアが、炊飯器のセンサーから情報を受け取って適切に制御しているからできることなのです。

 もしもセンサーから得た情報をコンピューターが適切に処理しなかったらどうなるでしょうか。

 すでにご飯が炊けているにもかかわらず、必要以上に加熱をし続けていけば、炊飯器の中の水分は抜けていき、内釜にご飯が焦げ付いてしまうでしょう。それで止まればいいのですが、その段階でも止まらず加熱を続けていけば、やがてご飯はすべて焦げ付き黒く炭化してしまいます。さらに続けば、過熱状態になり炭化した米から発火し火災につながることも考えられます。

 コンピューター制御で安全で安心してご飯が炊けるはずの炊飯器が、ソフトウェアの不具合によって発火し火災につながってしまうことなど、誰も考えることはないでしょう。しかし、ソフトウェアのプログラムにほんの僅かなミスによっても、こうした事態が起こることが十分考えられます。

◎自動車の場合

 また、最近の自動車もほとんどがコンピューターによって制御されています。

 え?自動車なんでドライバーがハンドルを握って、アクセルを踏んで動かし、停まるときはブレーキを踏みます。それらの動作は、多くは運転席の下にあるペダルとスロットルもしくはブレーキ装置と機械的につながっていました。

 ところが、最近の自動車はそうではありません。

 アクセルはペダルこそ以前と変わりませんが、足でペダルを踏み込んだ強さはエンジンスロットルに直接伝えられず、電気信号に変えらます。そして、この電気信号をコンピューターが受け取ると、ドライバーがアクセルを踏み込んだ強さに応じて電子制御スロットルに伝えられ、速度やエンジン回転数に適したもっとも効率がよい量の燃料を噴射します。こうすることで、車の燃費性能を向上させています。

 また、このコンピューターは変速機も制御しています。

 今日、多くの自動車はオートマチック車です。かつてはマニュアルミッション車も造られていました。かくいう私も、最初に乗った日産・アベニールというステーションワゴンも、5速マニュアルミッション車でした。ギアを1速に入れて、アクセルを踏み込みながらクラッチペダルをゆっくりと離し、一定の速度とエンジン回転数が来たらクラッチを踏んでギアを2速に入れていく。この動作を繰り返しながら、車を加速させていました。ギアはマニュアル車が大勢を占めていた時代は、車に積まれたコンピューターはスロットルの動作や車全体の故障診断といったごく限られた機能しか持っていませんでした。

◎航空機はというと

 ところが、今日の車はスロットルだけではなく、オートマチック車であればギアチェンジもコンピューターによって制御されています。最近の流行でもあるCVT(無段変速装置)も、コンピューターの制御によって変速比を変えています。

言い換えれば今日の自動車の多くは、コンピューターなしには動くこともままならないのです。

 ところで、このような仕組みの乗り物は自動車以外にもありました。それは、なんと飛行機です。エアバス社製の飛行機のほとんどは、スロットルレバーや操縦桿の動きを電気信号に置き換え、その電気信号を受け取ったコンピューターがエンジンの出力を調整したり、操縦翼面を動かしてパイロットが意図した機体の動きを実現させたりしています。いわゆる“フライ・バイ・ワイヤ”とよばれるもので、1990年代後半から採り入れられた技術でした。自動車の世界では“ドライブ・バイ・ワイヤ“と呼ばれ、その原理は飛行機のそれとほぼ同じでした。

 このように、身近な交通手段である自動車にも、コンピューターが多用されているとなると、やはりソフトウェアに不具合があった場合、予想もし得ない重大な事故につながる可能性は捨てきれません。あってはならないことですが、アクセルペダルから足を離したにもかかわらず、コンピューターが誤作動を起こしてスロットルが開いたままの状態になり、ドライバーが意図しない加速を続けて大事故を起こした、というようなことも現実として起こる可能性もあります。