旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

消えゆく「国鉄形」 老いてもなお「冬の生活」を支え続ける【後編】

 1987年の分割民営化で、全車がJR貨物に車籍が継承され、国鉄時代と変わらぬ石油製品を運び続けていきます。ところが、1989年から再び製造が再開されました。旧式化した在来のタンク車の置換用として製造されたグループは、さらに改良がおこなわれて積載荷重が44トンになるなど、さらに輸送効率を上げることができました。
 その後暫くは石油輸送列車の主役として、名古屋以東の各地で活躍をします。石油輸送用の専用貨物列車には必ずといっていいほど連結されていて、今日のタンク車といえばこのタキ43000形とその派生形式といっても過言ではないでしょう。
 こうして内陸部の石油製品の需要を支える、言い換えればそこに住む人々の生活に直結した物を運ぶという使命を果たすべく、日々黙々と走り続けていました。

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 ところが、二軸ボギー台車を装備するタンク車の中では最大44トンの積載量を誇るタキ43000形も、時が進むにつれて運用上のネックとなってしまいました。それは、最高速度が75km/hという走行性能でした。登場した当初は特に問題にはなりませんでしたが、民営化以後にその課題が顕在化していきます。
 民営化後、時が進むにつれて旅客車両の性能が向上し、列車のスピードアップがダイヤ改正ごとに図られていきます。速達性の向上による旅客サービスの向上や、車両の軽量化による運用コストの軽減など、鉄道輸送を取り巻く環境は大きく変化していきました。

 旅客列車の運転速度が上がってくに連れて、その合間を縫うように走る貨物列車もまた例外ではなく、スピードアップが求められるようになりました。もちろん、ダイヤ編成の主体となる旅客会社の事情だけではなく、貨物会社にしても列車のスピードアップによるリードタイムの短縮は荷主へのサービス向上にも繋がります。
 国鉄時代からコンテナ貨物列車のスピードアップの努力は行われており、民営化後にはそれに対応するために最高速度110km/hで運転できるコキ100系を製造し、次々と高速貨物列車と呼ばれる列車に投入していきましたが、石油輸送列車のような専用貨物列車は相変わらず75km/hに抑えたままでした。
 これでは、高速化するダイヤ編成上のネックになります。積載量が大きく輸送効率は高いとはいえ、タキ43000形ではさらなるスピードアップは難しい状況でした。
 しかし、タキ43000形のように運ぶ貨物に特化した貨車は、JR貨物の一存で新しい車両に置き換えることはできません。列車として運転するための車籍……自動車でいうところのナンバープレート……はJR貨物にあるものの、車両自体の所有者は荷主あるいは輸送専門会社が所有しています。いくらスピードアップをするために新しい車両に入れ換えたいとJR貨物が考えても、これらの貨車を所有する会社がそうしようとしなければできない話でした。

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 1993年から旧式化したタンク車の置き換えとともに、後継となるタキ1000形が製造されていきます。新しいタキ1000形は最高速度も20km/h引き上げられて95km/hで運転ができるようになり、ダイヤ編成上でのネックも解消に繋がっていきました。
 タキ1000形はその高速性能と、最大積載量がさらに増えた45トンという大きさで、これまでにない効率的な輸送を実現し、同時に輸送時間を大幅に短くすることができました。

 1993年の製造開始以来、今日までの800両以上が製造され、国鉄時代に製造された旧式のタンク車を置き換えたばかりでなく、高効率輸送を実現したタキ43000形をも置き換えていきます。
 こうして一時は石油輸送列車の主役にもなったタキ43000形でしたが、高速運転ができるタキ1000形が増えるにつれてその数を減らしはじめていき、特に夏季の石油輸送の多くは後継のタキ1000形にその役割を譲って第一線から退いていきました。
 第二線級に退いたといっても、まったく使われることがなくなったということはありませんでした。
 夏季こそ石油需要が減るために活躍の場は減ったものの、冬になると石油需要が大きくなるために季節列車として運転される石油輸送列車に組み込まれために駆り出されていました。

 とはいえ、やはり製造から最大でも40年以上が経っているので、車両自体の老朽化は否めません。それでも、老体に鞭を打って黙々と石油を運び続けるのは、やはり人々の生活を支えるという使命だからでしょう。つい最近見かけた季節列車に、タキ43000というトップナンバーが組み込まれていたことには驚きました。1967年の製造ですから、実に50年近く走り続けていることになり、他の鉄道車両では真似のできない長寿です。

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 高速性能に勝り、積載量も大きいタキ1000形の増備は続いています。その後輩が増えるとともに人々の生活を支え続けてきたタキ43000形は徐々に数を減らしてきています。やがては、冬季に運転される季節列車もすべてタキ1000形で運転される日が来るでしょう。実際、年を追うに連れてタキ43000方の姿を見ることが減ってきているのですから。
 しかしながら、石油製品という生活必需品を黙々と内陸部へ運び続け、多くの人々の生活を守り続けてきたタキ43000形の役割は、非常に重要であり大きなものだったといえるでしょう。それも車両によっては50年、四半世紀にわたってただひたすら石油を運ぶという仕事。それは後継となる新しい車両に代わっても、綿々とその使命は受け継がれていくことと思います。