旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

同じ石油製品を運ぶタンク車 別形式になった理由【2】

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《前回からのつづき》

 

 石油製品を輸送するタンク車ですが、実は消防法の規制の対象外です。1両あたりの積載量に特に上限は設けられてなく、あるとすれば走行する線区の軸重制限がある程度です。ですから、タンク車の歴史は1両あたりの積載量をいかにして増やすかの技術史みたいなもので、黎明期に作られた二軸貨車である7トン積・タ1から始まり、技術の発達とともに徐々に積載量が増え、戦後に多用された30トン積・タキ3000、さらに異形胴を用いて積載量を増加させた35トン積・タキ9900、そしてタンク車の決定版となった43トン積・タキ43000へと発展していきました。

 言い換えれば、石油製品輸送用のタンク車は、危険物品を運ぶ車両でありながら、消防法の定める「移動タンク貯蔵所」という定義にはあてはまらず、鉄道で輸送する限りは上限がないもっとも効率の高い陸上輸送の手段だったのです。

 さて、いくつか紹介したタンク車の形式ですが、これらはすべてガソリン専用のタンク車の形式です。

 石油製品はガソリンだけでなく、ディーゼルエンジン用の軽油や暖房用の灯油もあります。これらもまた、タンク車で運ばれていますが、同じ形式の車両で運ぶことはできません。いえ、理屈からすれば運ぶことはできるのですが、そうしていないのが現実です。

 例えば、かつてのスタンダードなタンク車といえるタキ3000でいえば、

 

タキ3000(35トン積ガソリン専用・実容積41.0㎥)

タキ1500(35トン積石油類(除くガソリン)専用 実容積38.0㎥)

 

 と、ほぼ同じ設計の車両でもガソリン専用とガソリン以外の石油類専用とでは分けられています。積載量は同じ35トン積ですが、タンクの実容積は3㎥もの差があります。これは、1㎥=1000リットルなので、タキ3000とタキ1500の差は3000リットルにもなります。

 積載荷重が同じなのに、どうしてこれだけの容量に差が出るのでしょうか。

 これは、ガソリンとその他の石油類では、比重に大きな差があるためなのです。比重とは物質の密度のことですが、このあたりは中学校の理科に出てくる学習でしょう。比重の基本は水であり、値が1を超えれば、それは水よりも密度が濃く、重量もその分だけ重くなります。比重が1.5の物質ならば、その物質の重さは水の1.5倍と考えられます。反面、比重が1よりも低い物質は、水よりも密度が薄いものであり、その値が0.5ならば、その物質の重さは水の0.5倍と考えられます。

 つまり、同じ積載荷重でも、ガソリンとその他の石油類では密度に大きな差があるため、ガソリンのタンク体にその他の石油類を満タンに積み込むと、限度とされる35トンを大幅に超えてしまうことになります。

 その逆に、その他の石油類のタンク体にガソリンを積み込むと、限度とされる35トンには満たないものの、積み込む容積は3000リットルも少なくなり、輸送効率を下げてしまうことになるのです。

 このような理由で、同じ石油製品でもガソリンとそれ以外の石油類では、同じ設計でもタンク体の大きさが変えられていて、形式も別形式になっているのです。

 分割民営化後も使われ続けたタンク車の中で、ガソリンと石油類の輸送に使われた主なタンク車について示します。

 

タキ9900(35トン積ガソリン専用 実容積48.0㎥)

タキ9800(35トン積石油類(除くガソリン)専用 実容積41.2㎥)

 

タキ35000(35トン積ガソリン専用 実容積47.9㎥)

タキ45000(35トン積石油類(除くガソリン)専用 実容積41.1㎥)

 

タキ43000(43トン積ガソリン専用 実容積58.9㎥)

タキ44000(43トン積石油類(除くガソリン)専用 実容積50.6㎥)

 

 この通り、ガソリンと石油類では同じ荷重でも、タンク体の容積には大きな開きがあることがわかります。軽油や灯油、重油、潤滑油といった石油類の方が容量が少ないことから、ガソリンと比べて比重が大きいことを示しているのです。タンク体の大きさ自体に差があることから、車体の長さも変わるので、形式も別にして識別しやすくしているのです。

 

タキ43000系列のタンク車。上は43トン積ガソリン専用であるタキ43000、下は43トン積石油類(除くガソリン)専用のタキ44000。基本的な設計は同じだが、ガソリンは比重が軽い分だけ、同じ積載量でもタキ43000の方がタンク体が長くつくられている。一方、ガソリン以外の石油類(重油軽油、灯油など)の輸送に使われるタキ44000は、比重が僅かに重い分、同じ積載量でも体積が小さくなるため、タンク体は短くなって寸詰まりのような印象を与える。このように、同じ石油製品を運ぶタンク車でも、その用途によって違いがあることから別形式になっている。(上:タキ43476 下:タキ44010 いずれも新鶴見信号場 2013年10月 筆者撮影)

 

 この中で、タキ43000とタキ44000は、2023年現在も運用が続いています。タキ43000は民営化後に積載荷重を1トン引き上げたタキ243000が製造され、さらに45トン積に引き上げ、最高運転速度を95km/hを可能にしたタキ1000に移行しています。その一方で、タキ44000の後継となる車両はなく、国鉄から継承した車両が運用され続け、車齢も長いもので50年以上、短くても40年以上が経ち、老朽化が心配される時期に来ています。いずれは後継となる車両が開発されると考えられますが、そのようなアナウンスもないので、当面はガソリン以外の石油類輸送に活躍することでしょう。

 今回も最後までお読みいただきたき、ありがとうございました。

 

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