旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

もう一つの鉄道員 ~影で「安全輸送」を支えた地上勤務の鉄道員~ 第二章 見えざる「安全輸送を支える」仕事・その2「点呼と整時・・・鉄道マンならではの朝の習慣」【前編】

◆点呼と整時・・・鉄道マンならではの朝の習慣【前編】

 着任して数日、始業の定刻である8時30分前に出勤。といっても、8時30分ギリギリに出勤してはまずい。新人はとにかく先輩より早く出勤し、お茶を入れたり掃除をしたりしなければならない…と、気合いを入れて8時より前に職場に着くと、先輩たちも同じような時刻に出勤だった。

 はあ、初日からやってしまった!なんて内心ビクビクしながら詰所に入っていったが、なんと先輩たちは各々自分のカップにお茶を入れたりコーヒーを入れたりしていた。新人だからそうした下積みはするものだと思い、九州でもそうするものだと教わってきたが、施設・電気の職場ではそうした風習はなかった。
 恐る恐る主任に聞いてみると、軽く苦笑いをしながら「そんなこと、しなくても大丈夫だよ」とのこと。いや、そうはいっても、やはり新人ですからそうした下働きはしなければなんて考えていると、どうやら不安そうな顔をしているのが分かってしまい、主任は「もう、ここではそういう時代じゃなくなったんだよ」だそうだ。
 後で聞くと、国鉄時代はそうした習慣があって、新人は先輩よりも早く出勤してお茶くみや掃除をして先輩が出勤してくるのを迎えたようだった。だが、中には意地の悪い人もいて、ちょっとでも気に入らないと新人を叱りつけ、酷い時には人格すらも否定していたという。まあ男所帯だからそうしたことがあっても不思議ではないが、先輩たちはそうした時代に散々嫌な思いをしてきたから、自分たちは私たちのような新人に同じ思いはさせたくなかったようだ。なんとも有り難い話だ。
 それに、施設・電気は会社の中でも小所帯なので、自分のことは自分でするのが基本になっていたのもあったようだった。

 出勤してきた先輩たちはというと、お茶を飲みながら炊事場(鉄道は基本的に24時間動く仕事なので、詰所には必ず食事を自炊でつくることができるキッチンと、つくった食べ物を食べる小さなダイニングが備わっていた)に集まって、朝の連続ドラマを観るのが習慣だった。もちろん、私たち新人がその中へ入って一緒にテレビを観るなんておこがましいから、自分のデスクでマグカップに入れたコーヒーを飲みながら、会社から支給された運転取扱規程やその資料集を読んで自習をしたものだ。

 定刻の8時30分になると、それまでテレビを観ていた先輩たちは一斉に自分のデスクへと戻って来た。ちょうど、連続ドラマの終わりが始業開始の合図みたいだった。
 鉄道では始業時に必ず「点呼」がある。一般の会社で言うところの「朝礼」みたいなものだが、それとは少し意味合いが違うかも知れない。
 それというのも、私が勤めた日勤ダイヤが基本になる地上勤務の職場では全員が一斉に点呼を「受ける」のだが、機関士などの乗務員は一斉に点呼ができない。だから、乗務員は始業時に所属する区所で運転助役のもとへ出頭し、出勤したことを確認する点呼を受けるのだ。そして、これは地上勤務も乗務員も共通なのだが、点呼の時に区長や助役から、その日の業務にかかわる注意事項や会社からの通達を受け、どの業務に就くかの担務指定を受ける。