旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

もう一つの鉄道員 ~影で「安全輸送」を支えた地上勤務の鉄道員~ 第二章 見えざる「安全輸送を支える」仕事・研修が終わったからといっても【前編】

◆研修が終わったからといっても【前編】
 すべての研修が終わって、ようやく新しい職場でお仕事開始!
 と、いうわけにはいかなかった。そりゃあそうだろう、何しろついこの間までまともに線路上に出ていたことなどなく、理論とちょっとした実技を習ってきただけ。そんな新人を、列車や入換の車両が行き来する線路にいきなり出すなんて、恐ろしくてできるわけがない。
 そうはいっても研修が終わった安心感と、配属された職場に戻れたことで期待感もあってか、「さあ、バリバリ仕事をするぞ!」なんて意気込んでいたから、ほぼ毎日のように朝の点呼で行われる担務指定で「事務整理」を指定されると、「ああ、また今日も籠もりか」と愕然としてしまったものだ。
 かといって、何もさせないというわけにはいかないだろう。そりゃあそうだ。会社としてはいくら安いとはいえ、給料を払っているのだから何かしらの仕事を与えないわけにもいかない。それに、先輩たちにとっても、いつまでも新人だからといって遊ばせておくのではなく、早いうちに仕事ができるように育てて「戦力」にしなければ、せっかく人が増えたのにもったなだろう。
 そこで、最初に与えられた仕事が「詰所の掃除」だ。
 え!?と思われた方もいるかも知れないが、これ本当のお話。
 私が入った頃でこそ、先輩よりも早く出勤して執務机を拭いて、お茶を用意しておくなんてことはなくなっていたが、その昔、国鉄時代は当たり前のようにあったらしい。先輩方の苦い経験(?)から、私たちの代にはそういったことはしなくていいとなって免除されたが、やはりこの当時の鉄道は基本的に「男所帯」なので、自分たちのことは自分たちでするのが原則だった。
 だから、というわけではないだろうが、鉄道マンは「掃除・炊事・洗濯」はできなければ務まらないといってもよかった。いまの若い鉄道マンは、こういったことあまりしなくなっただろうなあ。
 それに、鉄道は大小様々な職場がある。機関区のような大所帯になると、掃除を専門にする業者が入ってきれいにしてくれるかも知れないが、私が勤めた電気区・施設区のような小さな職場にいちいち業者さんを入れていては経費もかかってしまう。だから、自分たちで掃除しなければならないのだ。
 さて、詰所の掃除は若い新人の仕事となり、長ほうきを出してきてはせっせと掃き掃除をする。集まったゴミは、同期が持つちり取りへと集めていると、まるで学校に戻って同級生と一緒に教室掃除をしている気分だった。
 詰所が終われば次は廊下、といった具合にきれいにしていった。
 そして、最後の「難関」が私たちの前に立ちはだかった。
 それは、トイレだ。トイレ掃除をいったい誰がやるのか?と、同期たちとちょっとした問答になった。誰でもトイレ掃除はイヤなもの、だからお互いに押しつけ合うのだ。
 私はそうした押し付け合いとか面倒なことが嫌いな性分だったので、「そんなに言うなら俺がやるよ」と言い出した。まあ、トイレ掃除なんて訳ない。小学校から中学校、そして高校に至るまで、どういうわけだかトイレ掃除とは縁が切れなかったから、会社に入っても同じなんだろう。