旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

「のぞみ34号」重大インシデントについて元鉄道マンの考察と提言(7)

広告

2.否めない技術の劣化(3)

 次に輸送指令の技術について述べたいと思います。
 前項で、「のぞみ34号」が重大インシデントを起こした当時の輸送指令の対応については述べたとおりです。
 輸送指令がある指令所には、列車の在線状況を表示する表示盤、そして分岐器や信号機を操作する操作卓があります。

 かつてはアナログ制御だったので在線表示盤は管轄する路線が長大なほど巨大になり、新幹線では東京から博多まで線路の配線から閉塞区間ごと列車の在線表示、走行する列車の列車番号を表示させてました。
 操作卓も機械式なのでセクションごとに分割されているとはいえ、表示盤同様に大型のものになり、そこには線路の配線図上に信号や転轍機を制御させるためのスイッチ類が取り付けられていて、指令員は必要に応じて進路の設定を行っていました。

 今日ではIT技術の発達によって、指令所の列車在線表示盤や信号操作卓はすべてコンピュータ化されています。在線表示盤は大型モニターに代わり信号操作卓は液晶モニターとキーボードというごく普通のパソコン端末となりました。

 東海道山陽新幹線では早い段階からコンピュータ化がされており、1972年にはCOMTRACと呼ばれるコンピュータ制御による運行管理システムが導入されています。その後も改良を重ね、単に列車の集中制御による進路制御の自動化にとどまらず、現在では旅客案内管理や異常時のダイヤ切替機能、沿線に設置された気象観測装置から送られる気象データ表示機能など多様化しています。
 列車の運行管理にかかわる様々なことがコンピュータにより自動化されたことで、指令員はそれを監視することが主な役割になりました。積雪や強風などの異常気象時における列車の運転速度を減速させたり、或いは列車の運転そのものを抑止させたり、列車に異常があった場合には列車無線を通じて乗務員等と連絡を取り合い必要な措置を講じることは、いくら技術が発達して自動化が進んだといっても、最終的には人間が必要な情報を集め、それを基に適切な判断をしなければなりません。
 ここでいう適切な判断とは、鉄道輸送の生命線といえる安全を最優先とした判断であり、運転ダイヤを最優先にする判断ではないことは言うまでもありません。

 こうした輸送指令で業務に携わる指令員には、現場での豊富な経験とそれに基づく高い知識が求められます。この経験と知識を基に、指令所の表示盤に点された灯りでしかない列車がどのような状況にあるかを想像し、指令として必要な事は何かを考え、現場にできる支援や乗客の安全を確保する措置を立案・実行することが指令員に必要な技術だといえます。
 しかし、現実にはこうした高い技術と豊富な現場での経験と知識をもった指令員の多くが定年を迎えて去って行き、近年ではある程度の現場経験を積んだ若い指令員が多いと聞いています。まさに、ここでも技術継承がままならない状況にあると考えられます。
 こうした指令所の実態を考える時、人間の判断や操作などを支援するためのコンピュータが、いつの間にか人間がコンピュータに頼り切りになり、異常時に適切な対応をすることが難しい状況に陥っているのではないかとも推察でいます。