◆最後の添乗実習、門司-福岡貨物ターミナルの高速貨物列車【後編】
香椎駅に着くとほぼ定時に到着した。列車の運転で一番難しいことは何か?というと、私は定時に運転させることだと思う。特に、停車駅が極端に少ない貨物列車は、100km近くの距離をずっと走り続けるので、時間調整ということができない。だから速度調整をしながら通過駅で時刻を確かめると、速ければ速度を落とし、遅かったら速度を上げて調整するから、それこそ機関士の腕にかかっていた。
前回までは
本線から中線へと入り、香椎操車場で一度停車した。そして、博多臨港線と呼ばれる鹿児島本線の貨物支線に入り、それまでとは違ってゆっくりとした速さで単線の線路を走っていった。
この博多臨港線は、鹿児島本線で…というより、全国のJR線で数少ない貨物会社が保有する線路だった。門司から香椎までは鹿児島本線を走ってきたが、この鹿児島本線は旅客会社が保有する線路で、貨物列車は別会社だから線路使用料という料金を払って運転している。言い換えれば、他社の線路を借りて貨物列車を走らせているのだが、この博多臨港線は自分の会社の持ち物だからそうした料金は発生しなかった。もっとも、その距離は3.7kmだけだから、ほんのごく僅かだけど。
多々良川の橋梁を越え、国道3号線を跨ぐ鉄橋を渡り終えると、つい1か月ほど前まで勤務していた福岡貨物ターミナル駅の広大な構内が見えてくる。右側にコンテナホームを見ながら最も奥にある着発線へ入って、門司から走り続けてきた貨物列車は終着となった。
▲電気機関車の運転台は電車と比べて多くの計器と2つのブレーキ弁、そして大型の主幹制御器(マスコン)に囲まれ非常に窮屈だ。ノッチも自動進段ではない形式では写真のようにノッチ刻みが細かく、機関士は速度計はもちろんだが電流計を見ながらハンドルを操作し、主電動機へ流れる電流値を制御して加速させていく。自動車で言えばマニュアル車のようなものだ。
この添乗実習はとにかく楽しかった。距離も長く、長い時間乗っていられたこともあったが、何より機関士の操縦や信号など観察して勉強できることが多かったからだ。
さて、私の添乗はここでお終い。折り返して上りの貨物列車には乗らずに帰ってくるようにと助役さんから言われていた。だから、機関士にお礼のあいさつをすると、長細い乗務員用扉から梯子を伝って機関車を降り、そのまま歩いて駅を出た。
と、ここまではよかった。
貨物駅の近くだから、制服を着た鉄道マンが歩いていても不思議ではない。
ところが、西鉄宮地岳線の貝塚駅から電車に乗る頃には、ちょっとした違和感があった。そう、制服を着ているから車内ではとにかく目立つ存在だったのだ。
制服のシャツとパンツ姿ならそうでもなかったが、問題は制帽だった。なんていったって、正面にはJRマークをあしらった徽章が縫い付けてあるから、いかにもJR職員だということがバレバレだ。それに、制服というのはやっぱり目立って仕方がない。夏場なのでスカイブルーのシャツだったが、左右の肩には二本の青い線が入った肩章が縫い付けられているから、いかにもどこかの会社か何かの制服と判ってしまう。
西鉄線ならまだよかった。香椎駅で鹿児島本線に乗り換えると、ますます目立つ存在になってしまい、それはもう他の交通手段があればそちらにしたい気分になってしまった。
そして、なんといっても座れないのだ。
なぜかって?そりゃあそうでしょう、JR職員がJRの列車の車内で座るなんてできるはずもない。いくら空いていても、その座席はお客さんが座るものだ。会社が違うなら関係ないでしょ?なんて声も聞こえてこなくもないが、お客さんから見れば旅客だろうが貨物だろうがやっぱりJR職員には変わりない。だから、座ることは憚れるものだ。
かくして門司機関区に戻るまで、3時間ほど立ちっぱなしだったから脚は棒みたいになるし、腰は痛くなるしで参った。まだまだ、鍛錬が足りないのかなあ。