旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

頑張るその姿に成長を感じたとき

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 バイトといえども、働いて給料を得るのですからそれは立派な仕事です。
 責任の大小や給料の高い低いといった話は脇に置いておいても、与えられたミッションをこなすのはあたりまえの話ですね。

 先日、とってもだいぶ前になりますが、昼食にハンバーガーを食べようということになり、オートバイを走らせて地元のマクドナルドへ買いに出かけました。
 さすがは土曜日のお昼時。
 ドライブスルーには車が列を成して並んでいるし、駐車場はすべて満車、空いたすきを狙って駐車待ちの車もあって大混雑でした。外がそのような状況なので、当然店内も混んでいました。
 まあ、仕方がありませんね。
 なにしろ、土曜日のお昼時なのですから、マクドナルドのようなファーストフードだけでなく、ファミレスなども混んでしまうのは避けられません。

 店内で注文待ちの列に並んで、カウンターの向こうを観察していると、とにかく大忙しの様子。注文は次々に入ってくるわ、できあがったバーガーはどんどん流されてくるわで大混乱になっていました。

 もちろん、できあがったバガーはサイドメニューと一緒に袋詰めにしたり、トレーに載せたりしてお客さんに渡さなければなりません。その注文が店内で受けたものなのか、それともドライブスルーで受けたものなのか、ということもキッチンプリンターで打ち出された伝票を見て商品を流さなければなりませんから、ともかく大変そうでした。

 さて、ようやく注文カウンターが私の番になってきました。
 カウンターには珍しく若い男性のアルバイト。

「いらっしゃいませ」

 その声は、どこか消え入りそうな小さな声でした。
 おや?お疲れなのかな?

 そんなことを思いながらも、注文を伝えました。

「店内をご利用ですか、お持ち帰りですか」

 いつもと何かが違いました。

 ともかく、このアルバイトのお兄さん、元気がないんです。
 そして、肝心な「注文の復唱」もしませんでした。
 こんな場面、元マネージャーの妻が見たら、何を言い出すかわかったものではありません。
 まあ、それはそれでちゃんと注文さえ受けてくれれば問題はないのですが、このあとせっかくのお昼時を台無し(?)にしかねない事態が起きていきました。

 いえ、それほど大事ではないんですけど。

 
 マクドナルドでは最近、ドコモのdポイントか楽天ポイントがつけられるようになりました。私は楽天ポイントをつけて貰うことが多いので、この時も楽天ポイントをつけて貰おうと思っていました。
 ところが、このお兄さんはこのことを忘れていたのか、私にカードを出されるまで気付きませんでした。もちろん、これだけの混雑ですからね、忘れてしまうミスだってあります。
 お兄さんは慌ててPOS端末を操作し始めました。
 決済は電子マネーですることを伝えてあったのですが、ポイントカードに気付くのが遅かったので、電子マネーICカードをかざすタイミングが見事に悪くて、ポイントを付けるための操作を終える前にICカードの読み取り機が反応してしまったのです。
 まあ、先にICカードを読み取り機に近づけてしまった私も悪いのですが、お兄さんの「ちょっとお待ちください」の声はとにかく小さくて、周りの騒々しさに負けてしまい私には聞き取りにくかったのでした。

 まあ、ポイントがつかなかったのは残念で、仕方のないことです。
 ですが、このお兄さん、カウンターに立つにしては声は小さく、元気がありません。商品を受け取るまでカウンターから離れて様子を観察していましたが、どこか仕事をするにも面倒くさそうな様子がありありと伝わってきてしまっていました。
 何より、接客をする立場なのに、表情が暗いのです。

 おいおい、そんなイヤイヤな感じで仕事をすると、いい仕事できないぞ。

 思わず心の中で呟いてしまいました。

 なんでもそうですが、嫌々ながらに仕事をすると、その仕事はけっしていい仕事にはなりません。それどころか、僅かな成果すら挙げることができず、結局最初からやり直すなんてことにもなってしまいます。
 これは、様々な仕事を経験してきたことからもいえることです。

 さて、そんなお兄さんやお店の人たちの動きを眺めながら、注文したものができあがるのを待っていました。
 やはり混雑は半端ではないようで、お店の人たちも混乱していました。
 そんな中、一人だけ目に留まるアルバイトのお姉さんがいました。
 自分の担当する仕事だけではなく、あちこちに目配せをしながら、必要とあらば他の仕事をフォローに入ることもしていました。まさに、仕事をする「プロ」らしい姿に感心してしまいました。

 ところが、5分経っても、10分経っても呼ばれませんでした。
 さすがに10分を超えたところで、私のイライラ度が上がっていきます。
 ファーストフードって、短時間で調理できたり注文してからすぐに食べられたりできるのが最大の長所です。それがいくら混んでいるとはいえ、10分超えは考えられませんでした。

(この顛末を帰って妻に話すと、「あり得ない!」とのことでした)

 そんなこんなで、さすがに15分経ったら言うべきことを言おうか考えていると、ようやくカウンターに呼ばれました。
 一瞬、商品を受け取るときにこのことを言おうかとも思いましたが、それは止(や)めました。お店の混乱はマネージャー以上の人たちの責任なので、アルバイトの店員さんに話したところで改善するとは思えませんからね。
 もう一つ、このことを言おうとする私を思いとどまらせたのは、先ほどのテキパキと仕事をこなすアルバイトのお姉さんが、私の注文した商品を渡すためにカウンターに出てきたのでした。
 彼女はドライブスルーの担当のようで、そちらの方で仕事をしていたのが、店内のカウンターが人手が足りないと見るや、こちらの応援に入ってきたのでした。

「お待たせして申し訳ございません」

 彼女は丁寧にお詫びをいうと、商品の入った袋を私に渡してくれました。

 と、そこで、思わず「あっ!」と小さく言いました。

 なんと、あろうことか、このアルバイトのお姉さん。
 私の教え子でした。
 教えたのはかれこれ15年ほど前で、私がいまの仕事になって教壇に立つようになってから2年目のことでした。

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 ともかく、15年以上も会社員として働いていたので、世間の厳しさや、仕事をすることの大切さや責任の重さなどを、折に触れて、ユーモアや経験談を交えながら熱く語って教えてきたものです。
 その中の一人が、アルバイトとはいえ一生懸命に、そして自分の仕事だけではなく、手の薄いところにフォローを入れるくらいに、責任をもって取り組む姿に嬉しくなってしまいました。

 もちろん、この教え子でもあるアルバイトのお姉さんは、私に気付いてくれました。

「こんにちは」

 ちょっと恥ずかしそうにしながらも、ハキハキとあいさつをしてくれます。

「いい仕事をしているね、頑張ってね」

 私はそれだけを言うと、商品を受け取りお店を出ることにしました。
 彼女もまた、余計なことを話すことなく、久しぶりに会った幼き頃の担任に商品を渡すと、

「ありがとうございました」

 とだけ、言って見送ってくれました。

 もちろん、これで十分なのです。

 彼女は仕事の真っ最中、私情の入り込む余地などありません。

 それどころか、混んでいて混乱しているお店で、貴重な戦力が余計なことに手を煩わせてしまっては、捌けるものも捌けなくなってしまいますし、そんなことになっては他のお客さまにも迷惑をかけます。
 それをしっかり自覚しているのでしょう、余計な会話をせず店員に徹したことが、とても嬉しく、そして成長した姿だと捉えることができました。

 先ほどのカウンターでの支払いトラブルから始まり、商品の受け渡しに10分以上もかかってしまい私のイライラ度は上がる一方でしたが、こうして自分でできる仕事を率先して取り組む教え子の姿を見たことで、大人げない行動に走らずに済みました。

 後日、何度かこのお店を訪れると、ほとんどのシフトに入っているのでしょうか、この教え子が一生懸命に働いている姿を目にすることが多くなりました。
 ともかく、仕事に徹している、自分でできることは自分のすべき仕事でなくても率先して取り組むということは、仕事をする上で大事なことを実践している姿に感心しました。

 最近、教育については様々なことがいわれています。
 ここでは多くを語りませんが、その中に「キャリア教育」というのがあります。
 将来、どんな仕事をしてどのようにして生きていこうか、なりたい自分を実現するためにはどのようなことをすればいいのか、ということを考え実践できる力を育てるものだといいます。
 このことは別の機会にお話ししたいと思いますが、少なくとも、この教え子の担任だった私は、折に触れて鉄道マン時代を始め、いろいろな仕事をした経験談などを面白く聞けるようにしながら話していました。
 その中で、自分の仕事だけではなく、自分からどんどん仕事を掴んでいってことを話しました。そうすることで、仕事を覚えるのも早くなるし、何より周囲の先輩や同僚からも信頼されて、とてもいい仕事ができたというものでした。
 この教え子はそのことを意識していたかは分かりませんが、私が話し教えたことを社会に出て働く中で実践していたと思います。

 少なくとも、この教え子がいつの日か本格的に社会に出ても、きっとやっていけると思いました。
 それと同時に、“教えるという仕事”の素晴らしさと、恐ろしさを改めて実感しました。人一人の人生に大きくかかわり、ともすればその人の一生をも左右しかねない立場にあること、それ故に非常に難しく責任も大きいものであり、同時に達成感はまさに「プライスレス」の言葉通り、何物にも代えがたいものだということを、改めて考える機会になりました。