旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

新幹線の「守護神」という役割をもった高速ディーゼル機・新幹線911形ディーゼル機関車【2】

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《前回からのつづき》

 

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 160km/hで走行できるという驚異的な性能を実現させた911形ですが、そのエンジンは専用に開発された大出力機関と考えても不思議ではないでしょう。実際にはそのような専用エンジンは開発されることはなく、国鉄は手持ちのものを活用しました。

 911形は在来線で運用されていた本線用ディーゼル機であるDD51形を基本に設計されました。そのため、エンジンは出力1000PS のDML61S形を採用し、これを2基搭載しました。そして、DD51形は動力台車を2台装着して、動輪軸4つのD級機でしたが、911形は動輪軸6つのF級機とし、2軸ボギー式台車を3台装着したのです。

 また、在来線用のディーゼル機で液体変速機を実用化させて実績をあげていたので、海外のディーゼル機に見られるような発電機と主電動機を使った電気式ではありませんでした。

 2基の大出力エンジンから動力を伝える液体変速機は、これもまたDD51形で実績のあるDW2形を基本に、新幹線で運用するための高速走行を可能にするため、副変速機を追加したDW2B形を装備しました。

 911形は高速走行が可能なディーゼル機ですが、その目的は車両故障などで本線上で立ち往生した列車を近隣の駅へと退避させる救援列車の先頭に立つことです。そのため、単に高速で走ることだけでなく、最大16両編成を組んで編成重量が970トンにも及ぶ列車を0km/hから引き出す牽引力も必要でした。

 そのために、牽引力と走行という相反する二つの性能が求められました。911形はこれを実現するために、0km/hから列車を引き出すことができる牽引力を発揮する低速段と、本線上を可能な限り高速で走行することが可能になる高速段とを切り替えることを可能にした副変速機を備えました。

 これによって、低速段では最高速度が93km/hとDD51形並に抑えられるものの、最大引張力が27000kgに達する強力なトルク力を備え、満員状態の列車を20パーミルの勾配で0km/hから引き出すことを可能にするとともに、高速段に切り替えることで160km/hという日本のディーゼル機ではもっとも速い速度で走ることで、後続列車のダイヤに与える影響を可能な限り低く抑えることが可能になったのです。

 軸配置はB-B-Bの6軸F級機で、国鉄ディーゼル機としてはDF50形以来の大型機で、2基の液体変速機に接続することで動力を得るものでした。その台車は両端がDT8001形、中央にはDT8002形を装着していました。

 911形の車体は、在来線のディーゼル機に多く見られる凸型の車体ではなく、DF50形やDD54形のような箱型車体とされました。これは、DD51形のような凸型の車体では、運転士が乗務するキャブが車体の中央に配置されます。エンジンをはじめとした機器類はキャブの前後に設けられたボンネット内に収められますが、この形状では運転台からの前方の視界に難があり、高速で走行するのには適さないものであると考えられます。

 

国鉄ディーゼル機関車としてはあまり例のない箱型車体を備えた911形は、塗装も在来線の朱色4号+灰色1号ではなく、青15号に全面は警戒色として黄色4号を配したものだった。凸型車体をもつディーゼル機が多い中で、このような箱型車体になったのは、160km/hという高速で走行することを考慮し、エンジンなどの機器を気圧変動などから守るためでもあったと考えられる。(©Shellparakeet, CC0, via Wikimedia Commons)

 

 実際、鉄道職員時代に添乗したDD51形やDE10形などといった在来線のディーゼル機には、エンジンなどを収めたボンネットがキャブの前後にあるため、連結面からかなり離れた位置にあるため、前方監視がしづらいため、車両感覚を覚えるためには相当な時間と経験が欠かせませんでした。しかし、911形は故障などによって自力走行ができなくなった列車を救援するときに運用するため、運転士がハンドルを握る機会はかなり限定されていました。異常時になって初めて稼働するので、不慣れな運転士(といっても、新幹線運転士の中でもディーゼル機操縦の訓練を受けたり、乗務経験があったりしているが)が乗務するのにボンネットがある凸型車体は適さないといえます。

 また、911形は高速で走行することが前提であるため、エンジンなどの機器類を風圧などから守ることも欠かせなかったといえます。これは、物が動くときには空気を「切り裂く」ことになりますが、その時に側面には空気の渦ができて気圧差が生じます。特にトンネルといった狭い空間では、この気圧差が大きくなるので車体にかかる圧力が大きくなります。0系に乗った経験がある方はおわかりかと思いますが、トンネルに入ると車体に大きな圧力がかかるので、車内では「ミシミシ」という音とともに、耳が「ツン」としました。そのため、まるで高い山に登っているときと同じような状態になるので、トンネルに入るたびに耳抜きをしなければなりませんでした。

 DD51形のようなボンネットは、この空気圧の変動からエンジンなどを守ることができません。911形は最高でも160km/hなので、200km/hを超えて走る営業用車両にかかる気圧差よりは幾分弱いかも知れませんが、それでも在来線に比べれば強くかかることは容易に想像できます。何度も気圧変動にさらされると、エンジンなどの機器類に多かれ少なかれ負担が生じてしまうと考えられたのです。

 そこで、911形は電気機関車のような箱型の車体とし、エンジンなどは機器室に収容することによって、この気圧変動から守ることにしたと考えられるでしょう。

 

《次回へつづく》

 

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