旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

続・悲運のハイパワー機 幻となった交直流6000kW機【1】

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1.はじめに

「君たちが機関士になったら、これを運転することになる」

 

 貨物会社に入社する直前だったか間もない頃、そういわれて紹介された機関車。当時の最新技術をふんだんに採り入れ、夢の1,600トン列車の運転の実現に向けて開発されたEF200形電機機関車は、既にこの稿でお話ししたとおり、1990年の試作機の開発を経て、1992年から量産機が製造されました。

 しかしながら、機関車の定格出力が6,000kW(家庭にある600Wの電子レンジが1万個分)というあまりにも桁外れのパワーを与えられたが故に、最大出力を発揮すると機関車が消費する電気も莫大になってしまました。
 出力が高ければ、それだけ電気の消費量も増えてしまいます。そのため、EF200がフルパワーを出すと、架線の電圧を下げてしまうため他の電車などが走れなくなり、さらには変電所を吹っ飛ばしてしまうなどの問題が起きました。

 このような問題が出てしまったため、EF200を開発したJR貨物は、1,600トン列車の実現を断念し、EF200はその持てる性能を十分に発揮することを禁忌とされ、国鉄時代に設計されたEF66と同等の出力に抑えるという「足枷」をされたまま、長い間東海道山陽線で走り続けました。

 

2.新型交直流電気機関車・EF500 開発の背景

2-1 1,600トン列車牽引を可能にする

 ところで、そのEF200ができた時を同じく、もう一つのハイパワー機が開発されました。

  EF500形交直流両用電気機関車がそれです。

  EF500はEF200の交直流版でした。

 EF200は旺盛な需要に対応して、1列車あたりで牽くことのできる貨物の重量を引き上げることを目的に開発されました。すでにお話ししたように、1,600トンという重量のある貨物列車を、高速で走ることができ、坂道でも引き出しができる性能が求められたのです。

 東海道山陽本線はすべて直流電化だったので、こちらにはEF200がその目的に沿って開発されました。将来的には老朽化しつつある国鉄形のEF65EF66を置き換えることも視野に入っていました。

 一方、同じく国鉄から引き継いだ機関車たちが多数を占める線区はまだありました。

2-2 首都圏~北東北・北海道方面の貨物列車事情

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▲首都圏から東北本線を経由して北海道へ乗り入れる(またはその逆)貨物列車は、途中、黒磯駅で交流機と直流機の交換が、青森信号場で一般の交流機と青函トンネル専用機と、さらに五稜郭駅で青函専用機とディーゼル機関車とそれぞれ交換をしていた。この交換作業の時間とコストを、さらに異なる機関車を保有することから1機種に絞って保有両数を削減することを目論んで、EF500が開発された。(©Sappoatu [CC BY 2.5], ウィキメディア・コモンズ経由で

 

 首都圏から北へ向かう東北本線を走る貨物列車は、黒磯駅と青森信号場を境にして機関車を付け替えていました。黒磯駅では直流区間EF65が、交流区間ED75がその先頭に立っていました。また、北海道へ乗り入れる列車は青森信号場で青函トンネル専用の装備をもったED79五稜郭駅(後の函館貨物駅)まで列車を牽く任についていました。言い換えれば、1本の列車で3つの形式の機関車がリレーをしていたのです。

2-3 日本海縦貫線と九州方面の貨物列車

 また、関西圏から日本海沿いを通り抜けて北へ向かう「日本海縦貫線」を走る貨物列車は、梅田駅(既に廃止)や梅小路駅(後の京都貨物ターミナル駅)からはEF81が先頭に立ち、1000km以上に及ぶ距離を1両で牽き続けていました。

 さらに九州方面では山陽本線幡生駅から門司駅までの短い距離をEF81が、常に海水がしたたり落ちるという過酷な環境の中を走り、門司駅から九州島内の各地へはED76が単機で重量の嵩む貨物列車を牽いていました。

 いずれも国鉄時代に設計・製造された機関車たちで、1987年の分割民営化の時点で車齢は既に20年に及ぶものがほとんどでした。そのため、いずれは老朽化が進んで置換えが必要であることは、JR貨物も認識していたといえます。

2-4 新型機EF500に求められたもの

 そこで、東北線EF65ED75ED79という3機種がリレーをしていつ機関車の運用を、1両の機関車にまとめることで、所有する機関車の数を減らし、途中で機関車を付け替える時間と労力など、運用にかかるコストを軽減しようと考えました

 また、日本海縦貫線などで走るEF81なども、将来的には置換えの必要があることや、EF200と同じく1両でも多くの貨物を運ぶことで、旺盛な需要に応えることも考えられました。

 こうして、EF200と同じく定格出力6,000kWという狭軌の機関車としては最大のパワーをもたせ、直流と交流を問わず走ることができる機関車としてEF500が開発されました。