旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

もう一つの鉄道員 ~影で「安全輸送」を支えた地上勤務の鉄道員~ 第一章・その19「臨時検査入場・・・その訳は」【前編】

◆臨時検査入場…その訳は【前編】

 機関区の検修科は台車検査を担当する班と、交番検査を担当する班、そして仕業検査を担当する班に分かれている。仕業検査は日々の検査なので、日中だけではなく夜間も作業をするので泊まり勤務となるから、作業ダイヤは別枠で設定されていた。


前回までは 

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 日勤で作業をするのは台車検査と交番検査で、その中でも幾つかの小さい作業班に分けられていて、朝の点呼ではその班ごとに担務指定を受ける。中でも「機動班」と呼ばれる班は少し変わっていて、通常は他の班の作業を手伝うことが多いが、一度機関車に故障やちょっとした不具合があると、すぐさまその機関車の補修作業をするというのがメインの仕事だった。
 もちろん、故障や不具合はない方がいいに決まっている。機関車が故障で動かなくなりました、なんてことがあると貨物列車の荷主さんにもご迷惑をおかけするし、本線を走行中に故障して止まってしまっては、貨物列車のお客さんだけではなく特急列車や普通列車のお客さんにまでご迷惑をかけてしまう。だから機関車も貨車も常に万全の状態にしなければならないし、その方がいいので、この機動班は「暇な方がいい」のだった。

 ところが、1991年7月8日はこの機動班は忙しい一日になった。
 朝の担務指定で検査長(車両技術主任)から、ED76形の1014号機が臨時入場することが知らされた。
 臨時入場とは、故障や事故などで不具合が起きた車両を運用から外して、定期検査以外に検修庫内に車両を取り込んで検査と修繕を実施する場合を指す言葉だ。つまり、このED76形の1014号機は不具合が起きたので、検修庫内に取り込んで検査と修繕をするというのだ。
 それを聞いた私は、「あ、やっぱりそうなんだ」と思った。
 というのもその前日、7月7日は休日だったので西鹿児島で高校時代の友人と会うために朝早く寮を出て、門司駅から一度小倉駅に行き、そこから西鹿児島駅(九州新幹線が開業して鹿児島中央駅に改称)行きの特急「ハイパー有明」に乗っていた。
 ところが、鹿児島本線遠賀川付近で後続の貨物列車が人身事故を起こし、乗っていた列車が急停車してしまったのだ。
 後続の?それなら先行する列車は停まる必要ないのでは?と思われる方もいるかも知れない。ふつうに考えればその通りで間違いではない。確かに、私もその時は「なんで?」と不思議に思っていた。
 後で気づいたことだが、この貨物列車の機関士は事故を起こした時に、防護無線を発報したようだった。防護無線の発報信号を受信した列車は、その列車の先にいようが後にいようが関係なく自動的に急ブレーキがかかる仕組みになっているから、私の乗った特急列車もこの貨物列車の発報した防護無線の信号を受信して急停止したようだった。
 その時は、ああ大変なことになってしまったな、運転していた機関士も気の毒だが、列車にはねられた方もただでは済まないから気の毒に、なんて思っていた。