旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

見た目ではブルトレ牽引機 最強電機登場までのリリーフだったF形【3】

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《前回からのつづき》

 

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 特急貨物列車を牽く電機としてEF65にその役を任せることにしたものの、10000系高速化車で組成された列車は、客車列車とは異なり編成自体が重量がかさむことに加えて、連続で高速運転をしなければならないため、EF65単機では出力に余裕がないため無理がありました。

 そこで、EF65重連で運用することで不足する性能に余裕をもたせ、本命である電機の完成までその任を担うことにしたのでした。

 電機の重連運転は、見た目にも迫力があるものです。その迫力と同じほど、機関車の出力は絶大なもので、一度重連運転となると多くの方が関心を寄せることでしょう。しかし、運用する側からすると、この重連運転はあまりしたくない方法の一つなのです。

 電機でもディーゼル機でも、重連運転をするためには同じ形式やそれに近い形式の車両が2両以上必要となります。当然のことなのですが、1つの列車に2両の機関車を充てるとなると、ほかに充てることができる車両が1両減ってしまいます。そうなると、手持ちの車両が減るので、運用のやりくりをしなければなりません。配置されている機関車に余裕があればそれも可能ですが、手持ちが少ない場合にはそのやりくりが難しくなる傾向があるのです。また、2両とも同じ運用に就かせるのも効率が悪く、経済性にも劣ります。通常、鉄道車両は運用に必要な数と故障などに備えた予備を配置しています。常時2両も出すとなると、必要数の2倍は配置しなければならず、それが難しいのであれば予備機を充てるなど、苦しい運用を強いられるので、運用側も特にこれを嫌っていました。

 また、検修面でも課題が多く存在しました。特に10000系高速貨車を使用した特急貨物列車のように、常に長距離・高速運転を強いられると、車両の消耗も激しくなるとともに、検査周期が短くなってしまいます。また、累積走行距離も延びたい放題になるので、老朽化を早めてしまうのです。それが同じ運用に2両の機関車が常に就くとなると、検査周期や損耗などによる部品交換といった作業が倍になるのです。

 加えて、運転面でも問題がありました。重連運転に使用する車両には重連総括制御装置が必須でした。

 通常、機関車は単機で運転することが前提なので、こうした装置は必要ありません。特に国鉄のように大量の機関車を保有する場合、不必要な機器を装備するのは、コスト面で不利なので、必要な車両以外には装備しません。



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EF60の牽引力とEF61の高速性能を両立させた平坦線区用として、1965年に登場したのがEF65だった。開発時から寝台特急の運用に充てることも計画されていたため、0番代の登場とほどなくして500番代P形も製造されて、東京機関区に配置となって栄光の仕業に就いた。寝台特急の先頭に立ったEF65は、その高速性能をいかんなく発揮したものの、牽引力との引き換えであったがゆえに、特急貨物列車を牽くには性能不足だった。(EF65 2[高二] 1994年 新鶴見区管区 筆者撮影)

 

 電気機関車重連運転は、その迫力から一度運転されると話題になることも多いものです。筆者が鉄道マン時代によく見た、EF64 0番代の重連運転は、EF64特有のブロアー音も相まって、中央東線の険しい山道に重量のある貨物列車を牽いて挑むにはふさわしく頼もしい姿で、日常的に見ることができたものです。とはいえ、それを運転するJR貨物としては、この重連運転を可能な限り早く解消したかったのです。

 重連運転は、単機では不足する機関車の出力を補い、牽引力を強化するために行われる運転方法です。特に険しい勾配が連続する山岳路線や、碓氷峠に代表されるように急峻な勾配が控える峠区間などで見られました。この重連運転を行うことで、単機では難しかった牽引定数を引き上げたり、峠区間において連結両数を減らしたりすることなく、可能な限り大量輸送を実現させることができたのです。

 このように、重連運転にはメリットもありますが、デメリットも多く存在しています。

 まず、重連運転は機関車が2両必要になることでしょう。単機であれば1本の列車に必要な機関車は1量で済みますが、重連の場合は2両、すなわち2倍になります。そのため、重連運転が日常的に行われる場合は、相当数の機関車を確保しなければなりません。かつて中央東線を駆け巡ったEF64 0番代の配置数に対して、後継となったEH200の配置数が少ないのは、EH200であればEF64の半分、すなわち単機で運転可能になったからです。

 また、単機の2倍の数の機関車を揃えるには、当然、製造コストも2倍に跳ね上がります。高価な機関車を2倍の数も製造することは、鉄道事業者にとって相当な負担になります。また、高価な機関車を製造して配置したとしても、運用する路線で列車が削減されてしまうと、それらの機関車に余剰が出てしまいます。他の線区へ転用できれば無駄にはなりませんが、転用が効かない特殊仕様となるとそうはいきません。結果的に余剰となった機関車は、高い金額をかけて製造したにもかかわらず、使い道がなくなり廃車にせざるを得えなくなるのです。

 運用にもデメリットがあります。重連運転が日常的に行われているとしても、機関車はそれぞれ1両ずつの存在です。固定編成にすれば話は別ですが、個々の機関車を毎回同じ仕業に就くとは限らず、運用をしていく中で切り離し、べつの車両とコンビを組むことはよくあることでした。そのため、単機の仕業に就く運用と、重連の仕業に就く運用とが混在し、それぞれの仕業に機関車を充てるには非常に複雑な計画が求められます。単機であればそうした必要もないのですが、重連は常にこうした複雑な運用を組み合わせなければならないのです。

 さらに機関車の検修にも労力とコストが必要でした。単機であれば少ない機関車で事足りますが、重連の場合は2倍の機関車が配置されてきます。当然、それらの車両たちの検修も2倍の労力をかける必要があり、検修に携わる車両係の人員や、補修用の部品の確保も単純に考えれば2倍になります。しかし、車両が2倍だからといって、車両係の人員を2倍にするのは経営上好ましいものではないので、実際には単機で必要な人員より少しばかり増やした数でまかないます。そのため、機関車の検査周期を期限到達前に絶妙なやりくりをして、2両同時に検査に入らないようにしなければならず、運用にも少なからず影響を与えていました。また、補修用部品は必要な数を確保しなければならないので、単機よりも多くの部品を在庫として抱えておく必要があり、当然、その分だけのコストはかかっていました。

 加えて運転部門も、重連運転には手間ひまをかけなければなりません。重連運転をする場合h、2両の機関車は同じ動作をすることが求められます。機関士がブレーキを緩解操作をすれば、2両同時にブレーキを緩解しなければなりません。

 かつて蒸機が鉄道の主役だった頃は、重連運転をするときにはそれぞれの機関車に機関士と機関助士が乗務していました。蒸機は燃料として石炭が必要であり、それぞれの車両でボイラーに給炭するとともに、動力となる蒸機の弁操作もしなければなりません。そうした操作は無人では不可能なので、蒸機1両ごとに機関士と機関助士が必要でした。しかし、この方法では2組の乗務員、最低でも機関士2名と機関助士2名を手配しなければならず、効率性が悪くコストのかかるものでした。

 そこで、電気的に遠隔制御が可能になった電機やディーゼル機では、2両の機関車を1人の機関士が乗務するだけで運転操作が可能になる重連総括制御装置を装備しました。このおかげで、重連運転のためにわざわざ1両に1人の機関士を充てる必要がなくなり、コストも大幅に軽減できたのです。

 

《次回へつづく》

 

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