旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

もう一つの鉄道員 ~影で「安全輸送」を支えた地上勤務の鉄道員~ 第二章 見えざる「安全輸送を支える」仕事・財布にはドル札、片手に英語の辞書【6】

広告

財布にはドル札、片手に英語の辞書【6】

 在日アメリカ軍専用線路を担当していた頃は、最低でも月に一回は東高島駅瑞穂埠頭や、田浦駅横須賀基地へ行くことがあった。
 このうち、横須賀基地はメインの場所からはかなり離れたところにあり、仕事が終わればすぐに基地の外へと出ていた。瑞穂埠頭は比較的緩やかだったのと、構内には売店や飲食店があったので、午前中から午後にかけて仕事が続いたり、仕事が終わって詰所へ戻る前に時間があったりすると、売店に立ち寄ることがあった。


前回までは

blog.railroad-traveler.info


 この売店はもちろん、基地で働く軍人や軍属、そして従業員のために置かれているもの。そこで売られているものはと言えば、当然アメリカでつくられ、アメリカで一般的に流通している商品がほとんどだった。
 だから、ちょっとした海外旅行で買い物をする雰囲気を味わうものだ。もちろん、少しばかりだが日本で売られている物もあったけど、アメリカの商品が圧倒的に多かった。

 そんな高校を出て間もない、世間を知らない私にとって売店で売られている物は珍しいものばかりで、別に必要もないのについつい買ってしまうこともしばしばあった。そして、売店で買ったお菓子などを手土産に実家に持っていったり、高校時代の友人におすそ分けしたり、帰り道に彼女の家に持って行ったりとしたものだった。

 ところが、何度か行くうちに日本円で買うと割高になることに気付いた。

 それはそうだろう、そもそもこの売店は誰のためにあるのかといえば、アメリカ軍の軍人や軍属といった人たちのためのもの。売店の店員が日本人でも、お客さんはアメリカン陣なのだ。だから、値札には米ドルと日本円の両方が書かれていたが、日本円の値段は若干高めに設定してあった。
 そうなると、わざわざわ高い物を買うのがバカバカしくなってしまう。ただでさえ、鉄道マンの給料は薄給なので、できる限り出費は抑えたいところだ。
 そこで私は何を思ったか、明け番や年休の時に銀行に行って、日本円を米ドルへ両替したのだ。そして、米ドルを常に財布に入れておいて、いつでも瑞穂埠頭売店で買い物ができるようにしておいた。

 これはある意味大当たりだった。

 売店で少しでも安く買えるだけでなく、時にはハンバーガーや飲み物も買うことができた。店員も支払いに米ドルを出してもらう方が後々処理も楽だったのか、わりと歓迎してくれた。

f:id:norichika583:20181106225505j:plain

 そんんわけで、この当時の私の財布には、日本円と米ドル、二つの国のお金が入っていた。

 米ドルがなくなってくると、また銀行に行って両替をする。
 何度か同じことをするうち、銀行の人も不思議に思ったらしく、何に使うのか聞いてきた。そりゃそうだろう、ふつう外貨に両替をするのは海外へ出かける時ぐらいのものだ。
 それが、海外に行くこともないのに、頻繁に外貨に両替だなんてある意味怪しいものだ。
 両替した米ドルを、米軍基地の中にある売店で買い物に使うことを説明すると、銀行の人も半信半疑のようだったけど、まあなんとか理解しようとしてくれてはいたようだったので、無事に両替をすることもできた。

 ところで、この売店でのできごとを二つ紹介しよう。

 一つはこの売店で売られていたハンバーガーだが、この食べ物自体は日本でも馴染みのあるものだ。街でメジャーなハンバーガーショップに行けば、安くても100円ぐらいで買うことができる。そして、その大きさは直径10cmぐらいの大きさが一般的だ。
 ところが、基地の売店で売られているハンバーガーは、値段は今となっては忘れてしまったが、問題はその大きさだった。日本で売られている大きさのものと思って買ったが最後、店員から渡されてハンバーガーはとにかく大きい。ちょうどCDか、それよりも一回りも大きいのにビックリさせられた。
 驚かされたのは大きさだけではない。店員から渡されたハンバーガーには、トマトケチャップやマスタードといった調味料はつけられていないのだ。だから、そのまま日本のハンバーガーと同じと思って頬ばると、肉とパンの味しかしないのだ。トマトケチャップやマスタードといった調味料は、立食用のテーブルに置いてあるチューブから、自分でハンバーガーにつけるようになっていたのだった。

 もう一つはチョコレート菓子のお話。日本でも馴染みのある「M&M'sチョコレート」。テレビCMも流れていた時代もあり、多くの人が知っている食べ物だと思う。
 このチョコレートの本場はといえば、実はアメリカ。というより、もともとがアメリカのお菓子だった。それが日本にも入ってきて、スーパーやコンビニなどでも売られている。
 この「M&M'sチョコレート」を基地内の売店で買うと、そのパッケージは明らかに日本のものと比べて大きかった。パッケージが大きいということは、中に入っているチョコレートの量も違う。
 国内で流通している「M&M's」の大きさをあまり知らなかった私は、その安さに任せて何個か買って帰っては、友人におすそ分けをした。すると、その友人はその大きさにビックリして目を丸くしたものだ。

 とにもかくにも、アメリカという国は「大きいというのはいいことだ」というのが文化なのだろう、ハンバーガーにしてもチョコレートにしてもビッグサイズだった。