旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

米軍専用線の返還に寄せて【2】

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 〈前回からの続き〉

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  横浜にある接収された施設の一つとして、横浜港に面したいくつかある埠頭の中で、瑞穂埠頭が米軍によって接収されたのでした。この理由としてあくまで推測ですが、横浜港に数ある埠頭の中で鉄道の線路が埠頭内にも敷かれていたこと、横浜市の中心部を通過することなく米軍の兵站輸送を行う列車を運行できること、さらに貨物専用線ともいえる高島線に接続し、多数の貨物列車が設定されている実績から全国の米軍基地への輸送が容易なことであること考えられます。

 同じような立地に新港埠頭が挙げられますが。こちらは高島線に接続はしていますが、新港埠頭自体が旅客船も発着するため人目に触れやすく軍事輸送という性格上、そうした環境はあまり好ましくないことや、また瑞穂埠頭のように埠頭ごと基地化して閉鎖空間とすることが難しかったため、瑞穂埠頭が選定されたと考えられるでしょう。

 さて、こうして終戦後に米軍によって接収、基地化された瑞穂埠頭ですが、ここには戦前から貨物用の線路が敷かれていました。東高島から分岐する支線(瑞穂線)の終着駅として、ここには瑞穂駅が設置されていました。筆者が鉄道マン時代に使っていた配線略図にも、しっかりと「瑞穂駅」と書かれていました。

 そもそも瑞穂駅の開業は1935年と古く、外国貿易の輸出入貨物を取り扱う貨物駅でした。ここに到着した船から陸揚げされた貨物は、貨物列車に載せ替えられて全国各地へと発送することを目的としていました。そのため、接岸した貨物船に横付けするように線路が敷かれ、構内には小規模ながらも操車場としての機能がもたされていたと、線路配置図から推測していました。

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数ある在日アメリカ軍基地の中で、国鉄の貨物支線と貨物駅がまるごと接収されたのは瑞穂駅のほかには例がない。瑞穂埠頭と鉄道施設は終戦直後にアメリカ軍に接収され、そのまま今日に至っている。瑞穂支線と瑞穂駅は、その後日本側の使用も認められたが、米軍施設内にあるため使い勝手が悪かったためか、国鉄線としては廃線・廃駅となった。写真は瑞穂埠頭の線路を東高島方から突堤を望んだもの。転轍機には転轍標識があり、ポイントリバーには電気鎖錠器が設置できるタイプである。既にこの頃には連動装置はないので、鎖錠機能も撤去されているが、これらの施設は「信号設備」として扱われているので、保守は国鉄時代は信号通信区、民営化後は電気区の管理になっていた。(旧瑞穂駅・横浜ノースドック 1992年3月 筆者撮影)

 

 今日の貨物輸送は鉄道も船舶もコンテナが中心ですが、第二次世界大戦前はばら積みが主体で、しかもパレット荷役という概念もない時代だったので、当然、貨物船からの荷役は人力に頼るところも大きかったといえます。接岸した貨物船から降ろした積荷は、可能な限り速やかに貨車に載せ替えなければなりません。これが、岸壁に対して垂直に線路を敷いていると、船から貨車まで相当な距離を運ばなければならず、荷役作業に多くの時間を費やさなければなりません。瑞穂駅は岸壁に対して並行に線路を配していたので、船から降ろしてすぐに貨車への積み込みを可能にしていました。

 戦時中も瑞穂駅は休止されることなく、それなりに機能していたようでしたが、終戦により米軍が接収すると瑞穂駅は一気に変わってしまいます。すでにお話したように、瑞穂埠頭をまるごと接収されてしまったので、当然、日本側の使用は一切認められなくなってしまいました。国鉄の線路、国鉄の駅であるにも関わらず、日本の貨物輸送に利用できないという特異な状態になってしまったのです。

 しかし、その状態は長くは続かず、日本側からの度重なる申請もあって、1947年には日本側の使用も認められるようになります。しかしながら、米軍基地の中に駅がある状態なので、他の貨物駅のように安易に使えるような状況ではなく、恐らくは瑞穂埠頭に残った日本の倉庫会社が関わる貨物の受発送に限るような、限定された状態での使用だったと考えられます。

 1955年には隣接する東高島駅が、それまで東神奈川駅から分岐し、東高島駅へ至る貨物支線の所属から、高島線へ所属を変更しました。この変更により、それまで瑞穂線が分岐していた千若信号場が廃止となり、東高島駅へ併合されます。駅としての分岐は入江駅でしたが、この変更で瑞穂線の分岐駅は東高島駅へと変更され、0.6kmですが営業キロが短縮されました。

 

《次回へつづく》

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