低騒音型の試作車である1901号機は、稲沢機関区に配置され、稲沢操車場を仕事場にして入換作業に就きました。実際の運用をしながら、どの程度防音効果があるのかを確かめるためです。
排気管に取り付けた大型消音器の効果はあったものの、ボンネットに収められたエンジンや冷却装置などは1000番代の設計のままだったので、その効果は限定的だったといえます。とはいえ、それまでエンジン音を轟かせるのは当たり前で、これといって周囲に対して配慮などしなかった「お国の鉄道」は、時代とでもいいましょうか、それなりに配慮するようになったのは大きなことでした。
前回までは
しかし、通常型のDE11形に比べて騒音は低下したとはいえ、1901号機に施された防音対策では、住宅地の真っ只中につくられる横浜羽沢駅で使うにはまだまだ十分ではありませんでした。
そこで、1901号機の実績をもとに、本格的な低騒音型の機関車を開発します。
1979年からつくられた2000番代と呼ばれるグループが、この低騒音型でした。
2000番代は外観からして、従来のDE11形とは大きく異なりました。
装備するエンジンは1000番代と同じ1,350PSの出力をもつものでした。しかし、エンジンを冷却するためのラジエターなどは、まったく異なる構造にしたのです。
標準形はラジエターはエンジンが載る長いボンネットの前方に取り付けられ、その上には冷却用の大型ファンも設置されています。しかし2000番代はエンジンの前方にラジエターを設けず、運転台とは反対側のボンネットに移しました。そして、ラジエター自体がエンジンから離れた位置に移したことや、機器室自体を密閉構造にしたためにDE10形に比べて放熱しにくくなったため、ラジエターの容量はDE10形に比べて大型のもになりました。
そして、ラジエターを冷却するためのファンは、従来のディーゼル機関車の標準的な円形のものではなく、騒音を発生しにくいシロッコファンに変えたため、ボンネットの長さも延長されました。
ラジエターを反対側のボンネットへ移したことで、エンジン側のボンネットには余裕ができました。そこで、エンジンが設置された機器室は密閉構造とし、エンジン自体からも音が漏れないようにしました。さらに、ボンネットそのものも防音構造とするなど、徹底的な対策を施しました。
そのために、車体の長さはなんと2mも長くなりました。
▲新鶴見信号場で出発待ちをするDE11 2001。本格的な低騒音型の重入換ディーゼル機関車として開発された2000番代は、徹底した防音対策を施された。そのため、1位側(写真の長い方)にはエンジンのみを収め、防音構造とした。ラジエターなどの冷却系は2位側に移し、冷却ファンもシロッコ形にするなど、少しでも音が出ないように配慮されている。足回りのスカートもそのためで、整備性よりも防音性を優先させた国鉄形車両としては珍しい設計思想であるといえる。(2011年 新鶴見信号場 筆者撮影)
そしてなによりも、低騒音型の2000番代の最大の特徴はエンジンを稼働させていてもDE10形やDE11形の通常型と比べて、その音が非常に小さいということでした。
入換作業の間合いで駅構内に停車しているとき、ディーゼル機関車はエンジンをアイドリング状態にしたまま留置します。いまでもそうなのかも知れませんが、筆者が鉄道に携わっていた当時はアイドリングストップという概念がなかったため、アイドリング状態で留置するのはあたりまえでした。
ところが、この2000番代は留置中、国鉄のディーゼルエンジン独特のアイドリング音はほとんど出さず、機関車に1m程まで近づかないとその音が分からないほど静かでした。
そして、重量の嵩む貨車を引き出す時、DE10形ならエンジンがフル回転していることが分かる咆哮を轟かせるのが、2000番代はそんな音を一切させず、エンジンがフル回転はしているものの、口を塞がれたなにかのように大きな音をあまり出しません。
もっと具体的にいえば、DE10形なら「ガラガラガラガラ~~、ドドドドドド~ッ」という音を出すのが、2000番代では「ブウォ~~~~~~~~ッ」といった感じになるのです。
実際、2000番代が恒常的に使われている横浜羽沢駅構内(そもそも2000番代は、この駅で使うことを前提に開発された)で作業中、入換作業が始まってもディーゼル機関車が走り出しているのか遠くではあまり分かりませんでした。それが、検査かなにかでDE10形が代走でやってくると、エンジン音は駅構内に響き渡って作業が始まったことと、入機が代走で代わったことが分かるほどでした。
それほど、この2000番代というディーゼル機関車は、徹底的な騒音対策が施されたのでした。
もう一つ、2000番代の特徴として、台車を中心とした足回りにあります。こちらも騒音防止の観点から、足回りを取り囲むようにスカートが設けられました。台車がレールのジョイント部を通過する時の「ガタン、ゴトン」という音をできるだけ小さくしようと、国鉄の技術陣はスカートをはかせたのです。もちろん、このスカートは効果を発揮しています。2000番代が通過するときには、ジョイント音はほかの機関車に比べると小さめです。音自体をまったくなくすことは不可能でも、ある程度軽減はできていました。
この足回りのスカートは、後年、騒音低減を目指した幾多もの鉄道車両に取り付けられました。しかし、整備性の悪さを嫌ってなのか、結局スカートは取り外されてしまいましたが、この2000番代だけは今日もしっかりと取り付けられています。
それだけ、貨車の入換をする機関車の音は大きいということと、そもそも住宅地のど真ん中に大規模な貨物駅を設置するという例のないことであるが故に、こした周辺に与える影響を最大限に抑えるべく性能をもたせたのでした。