旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

消えゆく「国鉄形」 常に目立つことなく隠れた力持ち【8】

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 まずは試作車として、DE11 1900番代がつくられます。
 試作車ですので、つくられた数はたったの1両でした。
 DE11 1901は外観こそほかのDE11形と同じでしたが、内部の機構には少し手が加えられました。エンジンから出ている排気管は、通常は長いボンネットに取り付けられた煙突につながっていましたが、1901号機は運転台の真下に排気管の消音装置を取り付けた関係で、短いボンネット側の煙突につなげました。

 この他に、運転台があるキャブの屋根にある装置が取り付けられました。
 四角い箱のようなもの・・・実はこれ、空調装置だったのです。それまでの機関車は電気、ディーゼルを問わず運転台には空調装置などありませんでした。そのため、夏場などはただでさえ照りつける日差しで暑くなるのに、機関車自体が熱を発生する機器の塊なので、運転台はまさに灼熱地獄といってもいいほどの暑さです。
 実際、夏にディーゼル機関車に添乗したとき、側面の窓は当然全開でしたが、それでも熱気はこもって汗ビッショリになるので、出入口の扉も開けっ放しにして入換え作業をすることで、ようやく風を取り込んでいました。

 鉄道の仕事の中で、運転士や機関士という職種は一見すると華やかに見えるものの、実際の労働環境は非常に過酷でした。そんな夏は暑く、冬は寒いことが当たり前だったところに、空調装置が設けられたというのはまさに歴史的なことだったといえます。

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DSC03536 -1  ▲DE11 2001の運転台があるキャブ部の屋上に、小さな箱状のものが見えるがこれが冷房装置である。ディーゼル機関車は巨大なエンジンをボンネット内に収めているため、電気機関車に比べて熱を発生しやすい。そのため、エンジンの放熱が運転台に入り込み、夏季は窓を開けても暑くなり作業環境はけしてよいとはいえない。そのため、冷房装置を装備された。(2011年・新鶴見信号場 筆者撮影)


 こうした機構をもった防音形の試作車である1901号機は、稲沢に配置されてテストを兼ねた運用に就きました。そして、実際に入換作業での防音効果の結果をもとに、本格的な低騒音型機関車が開発されます。

 低騒音型の試作車である1901号機は、稲沢機関区に配置され、稲沢操車場を仕事場にして入換作業に就きました。実際の運用をしながら、どの程度防音効果があるのかを確かめるためです。

 排気管に取り付けた大型消音器の効果はあったものの、ボンネットに収められたエンジンや冷却装置などは1000番代の設計のままだったので、その効果は限定的だったといえます。とはいえ、それまでエンジン音を轟かせるのは当たり前で、これといって周囲に対して配慮などしなかった「お国の鉄道」は、時代とでもいいましょうか、それなりに配慮するようになったのは大きなことでした。

 しかし、通常型のDE11形に比べて騒音は低下したとはいえ、1901号機に施された防音対策では、住宅地の真っ只中につくられる横浜羽沢駅で使うにはまだまだ十分ではありませんでした。

 そこで、1901号機の実績をもとに、本格的な低騒音型の機関車を開発します。