《前回のつづきから》
811系は1989年から製造されました。車体は当時、鉄道車両では当たり前になっている軽量ステンレス車体として、車体重量を415系などと比べて大幅に軽減させました。車体の重量が減るということは、使用する電力量も減ることに繋がります。
制御方式も、九州島内のみで運用することと割り切った交流専用としたため、直流区間を走行することを考慮する必要がなくなったことから、サイリスタ位相制御を採用しました。
交流車の制御方式はいくつかの方法があり、交流電機であれば変圧器に設けたスイッチの一種である「タップ」を切り替えることで電流量を変えていくタップ制御があります。タップ制御はその機器構成からどうしても大型になってしまい、搭載機器に制限のある電車には向かないので、サイリスタ位相制御が用いられるのが一般的でした。もっとも、この方法にはサイリスタダイオードという半導体部品が必要で、交流電機車の黎明期には、大電流に対応したサイリスタダイオードが開発されてなかったので、交流専用の電車を開発することが難しかったのです。言い換えれば、交流専用の車両は大電流用半導体の開発の歴史とともに発達してきたといっても過言ではないのです。
811系にもサイリスタ位相制御が採用されました。この制御方式は、サイリスタと呼ばれるダイオードを使い、電圧を連続で制御できるのが特徴です。直流車のように、抵抗制御では電圧を連続的に変えていくことは難しいため、どうしても抵抗器の接続を変えるときは電圧差が生じてしまいます。
一方、サイリスタ位相制御では連続的に電圧を制御できるので、抵抗制御のように電圧差が生じないので滑らかな加速が可能です。言い換えれば、こうした電圧差がないため、無駄な電気を使わないで済むので経済的であもあります。また、サイリスタ位相制御は回生ブレーキも使えるので、さらに運用コストを減らすことに貢献できます。
効果な交直流車をつくるより、製造酵素とを安価に抑えられ、経済性にも優れる811系では交流車としての開発を選択するのもうなずけるというものです。
さて、811系は製造当初は鹿児島本線の門司港ー荒尾間をはじめ、九州北部で活躍をはじめました。当時、JR九州にとって最新鋭の811系は少数派で、主に快速列車に当てる運用につきました。
古い国鉄形の車両はセミクロスシートで、こちらは地元の横須賀線や東海道本線の113系と大きく変わらず、どちらかといえば乗り慣れた方でしたが、初めて811系に乗ったときは「すべてクロスシート」という車内設備に驚き、同時に民営化によってJRとなったことで、接客サービスの質をあげようという意気込みのようなものさえ感じたものです。
811系の車内は、それまでの近郊形電車の常識を破り、扉間はすべて転換クロスシートを採用した。従来の固定式ボックスシートは座席が向かい合わせとなるため、見知らぬ人との相席になる確率が高い。転換クロスシートであればそうした確率は減らすことができ、利用者からも好評をもって迎えられたと思う。また、カラースキームも大きく変わり、座席は明るいブルーとラベンダーの組み合わせ、ヘッドレストもパープルと新会社に移行したことをアピールするには十分なものだった。(2007年10月9日 門司港駅 筆者撮影)
車内にはドアとドアの間を転換クロスシートがずらりと並んでいました。モケットの色も、国鉄時代の紺色ではなく、明るめの青色とヘッドレストはラベンターという、明るい印象を与えてくれます。客室の壁も、国鉄時代の「どの車両でも同じ」というグリーン系統ではなく、ホワイト系の色を採用したのでさらに明るく感じさせてくれます。
こうした座席は1両あたりの収容人数、すなわち乗車定員を減らしてしまうという弱点があり、ラッシュ時間帯の混雑が非常に激しい首都圏でこのような車両を投入することは難しいですが、九州北部は混雑も首都圏ほどではないのでこうした接客設備を可能にしたといえます。
このような設備をもつ車両は、残念ながら首都圏ではお目にかかれません。あるとしても特急形電車でなければ乗ることはできず、特急料金を支払って特急列車に乗るか、あとは東海道本線で特急の間合い運用で普通列車に充てられていた185系ぐらいしかなかったので、筆者には強烈な印象を与えたのは言うまでもないでしょう。
《次回へつづく》
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