旅メモ ~旅について思うがままに考える~

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海峡下の電機の系譜【Ⅲ】 世界初の量産交直流機EF30《後編》

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 「海峡下の電機の系譜」と題し関門トンネルを走り抜けた電機たちをふり返るシリーズ構成のお話も、いよいよ関門専用機として設計された世界初の交直流機EF30の後編です。

 こちらも前後編に渡る構成となっておりますが、どうぞ最後までお付き合いいただけると嬉しい限りです。

 


4.世界初の量産交直流両用電気機関車

 4-3 EF30の特異な構造

 シリコン整流器の実用化によって、従来の水銀整流器を装備した交流機に比べて、走行中も安定した性能と、故障しにくいという信頼性が高まったEF30。最初期の整流器であるが故に、交流区間では直流区間の半分にも満たない性能でしたが、交直どちらでも走行できる量産された機関車としては世界で初めての機関車でした。

 交直流機は交直どちらでも走ることができますが、そのために直流機や交流機と比べて多くの機器を搭載しなければなりません。

 このことを一言でいえば「直流機に交流機の機器を追加した」というものです。

 直流機は架線からパンタグラフを通して得た直流15001Vの電流を、電圧を制御する抵抗器をつなぎ替えて主電動機に流し、主電動機は電気エネルギーを動力に変換させて機関車を走らせます。抵抗器に流された電流で、主電動機に流さず不要となった部分は熱エネルギーに変換して捨てています。(抵抗制御

 交流機はこの直流機の制御方法とは異なり、架線から得た交流20000Vの電流を変圧器に流します。変圧器はパンタグラフ側に接続する一次巻線(高圧側)と主電動機側に接続する二次巻線(低圧側)があり、どちらにしても電流を取り出す(あるいは流し込む)コイルの位置を変えることで低圧側から出す電圧を制御し、それを整流器で直流に変換して主電動機に流して動力を得ています。(タップ制御)

 ところが、交直流機は直流区間を走行するために、交流機の制御方法はつかえません。そこで、交直流機は直流区間では直流機を同じ抵抗制御で走り、交流区間では変圧器で電圧を下げた電流を整流器で直流に変換し、その電流で抵抗制御をしているのです。

 そのために、直流機の機器に変圧器と整流器を搭載しているため、機関車の自重は自ずと重くなってしまいます。

 機関車の自重がいくらでも重くなって構わなければいいのですが、現実としてそれはできません。重すぎれば動輪軸を通して軌道にかかる負荷が大きすぎてしまうため、軌道を痛めてしまいます。そうなると、保線作業を頻繁に行わなければならなくなり、維持管理も大変なことになります。

 EF30が走る山陽本線が幹線で軌道の規格が高くても、軸重には制限があります。山陽本線の軸重は16tが限界なので、EF30もその制限の内に収めなくてはなりません。

 そこで、1つの台車に対して搭載する主電動機を1個にして、自重を抑える手法をとりました。

 通常の電車や電気機関車には、1つの台車に搭載する主電動機は2個で、それぞれの主電動機は動輪軸を1個動かします。電車であればWN継手などを使うカルダン駆動、電気機関車であれば吊り掛け駆動が一般的です。しかし、EF30は1台車につき1個の主電動機で2軸を駆動させるため、吊り掛け駆動にすることができませんでした。

 そこで、EF30は電気機関車としては珍しいWN駆動方式、いわゆるカルダン駆動となったのでした。

 こうした特異な構造を採用することで、自重を軽くさせて軸重を抑えることが実現したのです。

4-4 関門専用機として

 性能的にかなり割り切ったものとなったEF30は、まさしく関門専用機といえる機関車でした。

 関門トンネルは常に多くの海水が湧出し、湿度が高い環境であるため、塩害による車体や機器の腐食が起こりやすいという、ここを走る車両にとっては過酷なところでした。

 とりわけ、常態的にここを走るEF30には、EF10での苦い経験からそれに耐えうる対策が施されます。

 なんといっても、一番のと特徴は銀色に輝くステンレス鋼の車体にあるでしょう。

 ステンレス鋼が塩害による腐食に強いということは、EF10での経験から学んでいました。ただ、構体からすべてステンレス鋼にすることは当時の技術からは難しかったので、構体は普通鋼にし車体外板をステンレス鋼にした「セミステンレス車」の構造でした。

 ステンレス鋼の車体をもつEF30の意匠は、当時製造されていた電気機関車に共通するものでした。また、貨物列車を牽くときには重連での運用が基本だったので、前面は貫通扉を備え、その両側に長方形の窓、そして貫通扉の上には白熱灯1個の前灯という、ED60やED71などとほぼ同じデザインでした。

 側面には採光用の四角形の窓が3つと、その間を同じサイズのルーバー窓を備えている点でも、同時期に製造された電機とほぼ共通したデザインでした。

 ステンレス鋼の車体となったため、外板の厚さは抑えることができましたが、その分だけ歪みが目立ちやすくなってしまいました。試作機である1号機は薄いステンレス鋼のままだったので、溶接部分などとの歪みが目立ってしまいました。

 

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 2号機以降の量産機では、その歪みを目立たなくするためにコルゲート板を貼り付けて、歪みを隠すこととアクセントの2つの役割を担わせ、国鉄電機の中でも次回にお話しするEF81 300番代とともに大きな特徴となりました。

 関門間は客車列車であれば単機で牽引できましたが、貨物列車は重連での牽引が規定されていました。これは、連続20‰の勾配と常に湧水があるため湿度が高い環境のため、走行中に何らかの理由でトンネル内で列車が停まったときに、重量のある貨物列車を勾配の途中でも引き出すことができるようにするためでした。

 そのため、EF30には重連総括制御装置が装備されました。EF10でも同様の装備はありましたが、当時は技術的に難しく、特に空転検知が困難であったことから使われず終いでしたが、EF30ではこれを実用化できました。

 1960年に製造が始められたEF30は、1968年までの間に全部で22両が製造され、すべて関門トンネルを通過する列車の運転を担当する門司機関区に配置されました。そして、幡生操・下関ー門司・門司操間のすべての客車列車と貨物列車を牽く任にあたりmす。

 特に客車列車での運用では、普通列車から特急列車まで広範にわたっていました。寝台特急の運用では、連結する相手が時代とともに20系から14・24系になっても、そのステンレス車体と相俟って異彩を放っていました。

 また、国鉄の末期には短い距離でありながらもイラスト入りヘッドマークを掲げ、ブルトレ牽引という花形仕業を担っていました。

 1973年にはEF30だけでは仕業をこなすことができなくなり、増備としてEF81の関門仕様機である300番代がやってきましたが、この時点では廃車になることはありませんでした。

 しかし、常に過酷な環境での運用を続けたことで老朽化も進み、加えて貨物列車が削減されて運用が減ったこともあって、試作機である1号機が1978年に廃車となったことを皮切りに、1984年からは余剰となったEF81を関門仕様に改造した400番代の登場で、EF30は老朽置き換えのために廃車が始まりました。

  そして、1987年の国鉄分割民営化までに動態保存として残される3号機を残して全機が廃車となり、門司機関区を継承したJR貨物や継承されませんでした。

 JR九州には動態保存として3号機だけが継承され、大分運転所に配置されて保存されていましたが、こちらも民営化後は一度も活用されることはありませんでした。これは、あくまでも推測ですが、交流区間での性能が非常に低いこと、九州島内は交流電化なので、この性能ではジョイフルトレインを牽くことは非常に困難であったことが考えられます。

 また、静態保存としては21号機がJR貨物吹田機関区に保管されましたが、こちらも残念ながら日の目を見ることなく解体されてしまいます。唯一EF30が廃車後も幸運を手の下のは1号機と20号機で、1号機は北九州市内の公園で展示されていましたが、門司港レトロ事業の一環で整備され、和布刈(めかり)公園に移されて展示されています。

 20号機も静態保存機として高崎機関区で保管されていました。これは、民営化後にJR貨物が博物館を開設する計画があったという説があり、そのために遠く離れた高崎にやって来たのでした。確かに、鉄道マン時代にそのような噂を聞いたことがありましたが、実際にはそのような余裕はなく計画があったとしても宙に浮いたままでした。吹田で保管されていた21号機のように、解体される運命にも見えましたが、JR東日本横川運転所の跡地にできた碓氷峠鉄道文化むらでの保存が決まり、量産機としては唯一、完全な姿でみることができます。

 いずれにしても、世界初の量産交直流両用電気機関車として製造され、過酷な環境の関門トンネルを通して本州と九州を繋ぐという重要な役割を担ったEF30は、国鉄電機の中でも傑作車両と言っても過言ではありません。

(次回、海峡下の電機の系譜(Ⅳ)EF81へつづく)

 

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