旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

役割は地味だけど「花形」の存在だった電源車たち【3】

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《前回からのつづき》

 

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パンタグラフを装備した電源車 カニ22

 国鉄客車の電源車と言えば、ディーゼルエンジン+発電機を組み合わせた発電セットを搭載した車両というのが定番でした。しかし、ディーゼルエンジンを稼働させるためには燃料が必要であり、運用コストの面では有利とは言いがたいものがありました。

 他方、「あさかぜ」のように、全区間が同じ電化方式である路線のみを走行する場合、なにも軽油を消費するディーゼル発電機だけが電源ではなく、架線に流れる電気を電源にすることで、燃料代を節約できないかと考えられました。

 そこで、カニ21を基本に、ディーゼル発電セットとは別に架線から得た電気を編成のサービス用電源として供給できるように、電動発電機を搭載したのがカニ22でした。

 カニ22の最大の特徴は、客車でありながら屋根上にはパンタグラフが設置されていたことでしょう。20系客車の最大の特徴ともいえる車端部の曲線を基調としたデザインはほぼそのままでしたが、パンタグラフを載せる関係で屋根は浅くなり、その分だけ「頭が削られた」印象を与えました。そして、前後位それぞれ1基ずつパンタグラフを設置しました。

 パンタグラフから取り入れた直流1,500Vの電流を、そのまま編成のサービス用電源に使うことはできません。この電流は電源室内に設置された電動発電機に流され、そこでサービス用電源として使うことができる三相交流600Vの電流を「発電」させていたのです。

 この電動発電機による発電セットは、架線から得た電流を電動機(モーター)に流して回転エネルギーを出し、これに直結された発電機を回転させて目的の電流にするというものでした。このようにわざわざ一度回転エネルギーに変えて発電機で電流に変えるという方法は今日では無駄な方法に思われますが、当時としては最善の方法だったといえます。これは、現在のように大電流を流すことができる半導体がまだ発達途上で、インバーターなどを使うことができなかったためです。

 この電動発電セットを2基搭載し、さらにカニ21と同じディーゼル発電セットも2基搭載していたため、荷物室の面積が狭められてしまい、荷物の積載荷重はマニ20と同じ3トンまで下げられました。そして、電動発電セットとディーゼル発電セットをそれぞれ2基搭載したことで、カニ22の重量は20系客車の中で最も重くなり、自重は59トンにまで及びました。そして、発電用の燃料を満載するとその重量は64トンにもなり、軸重も最大で16トンに達するなどもはや客車としてのものではなく、直流電気機関車並の軸重になってしまいました。

 このような超重量級客車になってしまったカニ22は、カニ21まで装着していた台車であるTR54では支えきれなくなってしまいました。そこで、カニ22には電車用のDT21系とほぼ同じ構造のTR66が新たに設計されて装着されました。加えて、これだけ軸重がかさんでしまうと、運用できる線区も限られてしまいます。軸重の重い車両が高速で走行できるのは、線路規格の高いところでしか運転できません。軌条(レール)も太くて頑丈な50kgレール以上のものが使われ、道床に撒かれる砕石(バラスト)も厚く多く盛られ、その厚さは200mm以上で、しかも枕木は10mに16本にしなければならず、当時この規格で敷かれていたのは東海道山陽本線全線と、鹿児島本線門司-熊本間だけでした。

 これだけの制約があると、さすがに運用しづらいものがあり、カニ22は全部で6両が製造されただけにとどまり、使用できる列車も「さくら」だけになってしまいました。

 後に重量が嵩んだ原因である電動発電機は撤去され、「さくら」だけでなく「富士」や「あさかぜ」にも使われるようになったものの、活躍の場はそう広くはなりませんでした。

 カニ22の設計思想は、後に24系のスハ25 300番代に受けつがれましたが、これはパワーエレクトロニクスの進歩により、直流1,500Vを三相交流440Vに変換できる静止形インバータが使われたために実現できたもので、その発想は電化区間において架線の電流を電源として使おうとするものでした。

 また、カニ22は2両が24系化改造を受けてカニ25となりました。こちらはすでに電動発電機とパンタグラフは撤去されていましたが、20系の一員であり車体設計も20系のものであったため、実際に24系と連結すると少々違和感がありました。

 直流電化区間ではパンタグラフから電源を、それ以外の区間ではディーゼル発電機で電源を供給するという、今で言うところの「ハイブリッド」にもつながるとても先進的なアイディアでしたが、重量が嵩むなど当時の技術では限界だったため、あまり活躍の機会を得ることなく終わってしまった残念な電源車でした。

 

カニ22形式図。客車でありながら終電用パンタグラフを装備しているため、電車と見間違えてしまう。車内には架線から取り入れた電流を変換する電動発電機と、非電化区間で使用するディーゼル発電機をそれぞれ2組搭載していた。そのため、全長20mを超える大型車となってしまった。(出典:国鉄客車形式図1966年版 日本国有鉄道

 

《次回へつづく》

 

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