旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

この1枚から 夜行列車の食堂車

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 今年は暖冬だったせいもあり、桜の開花が早く既に満開というところも多いのではないでしょうか。

 せっかくの見頃だというのに、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、不要不急の外出を自粛する要請がでたため、残念ながらお預けとなってしまいました。一日も早く収束してほしいと願いますが、いかんせん未知のウイルスだけになかなか思うようにはいきません。

 こういうご時世なので、来年に期待したいと思います。

 さて、かつての長距離列車に食堂車が連結されていました。かくいう筆者も、幼少の頃、鉄道に興味をもっていろいろな情報に接する中で、多くの特急列車には食堂車なるものがあることを知りました。

 特に東京と九州を結ぶブルートレインには、必ず食堂車がありました。

 夕方、通勤ラッシュでごった返す東京駅から、ホームの人混みが嘘のような静かで落ち着いた空間であろう寝台特急に乗り、ある程度時間が来たところで食堂車で好きな食べ物食べながら、流れゆく景色を楽しむ。

 ああ、なんて優雅なことか!

 などと食堂車の写真を眺めては、妄想にふけったものです。

 しかし、寝台特急に乗って行くような遠い田舎があるわけでもないし(祖父母と同居だったので、「帰省」とは無縁だったので)、そもそも高額な運賃と料金を払って旅行などもできなかったので、妄想の世界でしか味わうことができませんでした。

 ところが、高校を卒業して就職すると、寝台特急に乗る機会が急激に増えました。

 拙著をお読みいただいている方はご存知と思いますが、筆者は卒業後に貨物会社に入社し、入社式を終えた翌日には九州へ異動を発令されて、18歳で福岡県の門司に赴任しました。

 いまでは考えられませんでが、この当時は1か月に2回、帰省することが許されました。そして、その旅費はなんと会社が負担してくれたのです!

 九州という1000kmも西の地へやって来たのだから、せっかくなのであちこち訪ね歩きもしましたが、会社が旅費を支給してくれるので、こちらも大いに「活用」して帰省しました。

 その往復で、寝台特急に乗ったのです。

 実家から九州に戻るときには、新幹線の乗り継ぎ、飛行機などなど様々な乗り物に乗ることを楽しみましたが、やはり寝台特急は格別でした。

 横浜から列車に乗ると、熱海を過ぎたあたりで必ず食堂車へ行き、食事をしたものです。

 食堂車に入ると、食欲をそそる料理の匂いでいっぱいで、座席に座るとメニューを眺めながら、何を食べようかとあれこれ迷ったものです。

 せっかく鉄道マンになったのだから、乗務員用のまかない食である「ハチクマライス」を注文したかったのですが、残念ながらメニューにはなかったですけど。

 その食堂車も、東京-九州間の寝台特急は、連結こそしているものの、営業は休止となってしまいます。

 次々と食堂車の営業が休止になっていく中で、最後までがんばっていたのが「北斗星」「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」ではないでしょうか。

 筆者は北海道へ出かけるときは、必ずといっていいほど「北斗星」を利用しましたが、夕食は予約が取れたときには食堂車を利用したものです。もちろん、朝食も食堂車を利用していました。

 「北斗星」の食堂車は「グランシャリオ」というフランス語で「北斗七星」を意味する名前がつけられ、いかにも「豪華特急」のダイニングを連想させるには十分なネーミングでした。もちろん、内装も東京-九州間の寝台特急とは違い、高級ホテルやオリエント急行のそれを想起させるもの。

 夜の車窓を眺めながら、これまたフランス料理を食べるのは、まさに「非日常」そのもの。旅への期待も膨らむものです。

 

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 寝台特急北斗星」は、青函トンネル開通とともに設定された東京-北海道を結ぶ列車で、車両こそ24系25形客車でしたが、大改造劇的ビフォー・アフターの如く、個室中心の客室設定になり、A寝台に至っては従来の個室A寝台である、オロネ25形とは比べものにならない広くゆったりとした間取りでした。

 また、廉価なB寝台も個室寝台を多く設定しました。1人用と2人用の2種類があり、どちらも2階建構造で、A寝台と比べて1室あたりの専有面積も体積も少なかったのですが、開放式とは異なりほかの乗客の目を気にせず、ゆったりとくつろげる空間があるというのは時代にマッチしました。

 まさしく、新時代の寝台特急でした。

 それだけに、人気の列車となり寝台券を買うことも難しい、ある意味「プラチナチケット」。なんとか苦労して「北斗星」の寝台券を購入できても、食堂車「グランシャリオ」で食事をしようとするのは、寝台券を買うよりも非常に難しかったのです。

 それは、1列車あたりに提供できる食事の量でした。

 「グランシャリオ」では、フランス料理のコース料理か、和風御膳のいずれかが選べましたが、どちらも数に限りがあります。しかも、食材の積み込みは下り列車は上野駅、上り列車は札幌駅だけでしか積み込めないので、さらに数は限定されていたのです。

 ですから、寝台券を購入するのと同時に食事券も購入しなければなりませんが、購入できればまさに「幸運」でした。

 そうして苦労の末に購入できた食事券を手に握りしめ、食堂車へと足を踏み入れると、食欲をそそる美味しそうな匂いが車内に溢れかえっていました。

 はやる気持ちを抑えながら、食堂車の乗務員に案内されて席に座ると、車輪がレールの継ぎ目を通過する時に出る「ジョイント音」をバックミュージックに、車窓を横目に食事をする。

 いまではけして味わえない「味」。思い返しても「非日常」であり、列車で夜を通して旅をするのに欠かせない存在だったといえるでしょう。 

 

あわせてお読みいただきたい

blog.railroad-traveler.info

 

 

こちらの書籍を参考にしました

男の隠れ家 特別編集 追憶の寝台列車

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  • 作者:三栄
  • 発売日: 2019/06/05
  • メディア: Kindle