旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

なぜ超低床コンテナ車を追求し続けるのか【2】

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《前回のつづきから》

 

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 JR貨物が主力と位置づけるコンテナ輸送では、利用客に提供するコンテナはすでにお話してきた通り、国鉄時代に制定された12ft5トンコンテナでした。対するISO規格コンテナは20ft10トンコンテナが主力だったため、これを載せるための設備が整った貨車が必要です。

 JR貨物の12ft5トンコンテナは、半自動式緊締装置と呼ばれる日本独自の仕様である器具を使用しています。対するISO規格コンテナはコンテナの四隅に設けられたツイストロックと呼ばれる緊締装置を採用しています。そのため、ISO規格コンテナをJR貨物のコンテナ車に積み込むためには、ツイストロック式の緊締装置を装備しなければなりません。

 

JR貨物で主力コンテナの一つとなっている19G形コンテナ。底面中央部にある楔状の突起が半自動式緊締装置で、JR貨物のコンテナ貨車にはすべてこの緊締装置が設置されている。(©TRJN, CC BY-SA 4.0, 出典:ウィキメディア・コモンズ)

 

 幸い、JR貨物のコンテナ車には、JR規格の20ft以上の大型コンテナを積載するため、このツイストロック式の緊締装置が装備されています。ですから、コンテナを車両に固定させるという点では対応が可能です。

 JR規格コンテナとISO規格コンテナで異なる点は、長さだけではありません。JR規格コンテナでもっとも多く使われている19D形ドライコンテナは、高さは2,500mmで製作されています。一方、ISO規格コンテナの標準型高さは2,591mmで製作されています。その差は僅か91mm=9.1cmですが、この僅かな差が日本のコンテナ車へ載せることを難しくしていたのでした。

 このISO規格コンテナをコンテナ車に載せることを阻んでいたのは、鉄道車両に設定されている車両限界でした。この車両限界は、鉄道車両に許容される最大のサイズを規定したもので、これを超えるものを製作・運用することは許されません。万一、この車両限界を超えた車両が本線上を走行すると、トンネルや駅ホームの上屋、電車線やそれを支える架線柱やビームなど、鉄道施設と接触をしてしまい、最悪の場合重大事故に繋がる恐れがあります。

 1987年に国鉄が分割民営化されたのと同時に制定された普通鉄道構造規則では、鉄道車両の最大高さはレール面から4,100mmと定められています。国鉄から継承し、JR貨物が数多く運用していたコキ50000は、レール面から床上高さが1,100mmでした。そこに、19D形ドライコンテナを載せると全高は3,600mmにもなります。とはいえ、車両限界の最大高さである4,100mmまで500mm=50cmもの余裕があるように見えますが、実際に規定されている車両限界は車体中心部から半径1,850mmの円弧状に描かれています。これは、トンネルの形状を考慮したものだからです。

 そのため、実際には最大高さ4,100mmの限界いっぱいまでを使おうとすると、その屋根部分もまた円弧を描く形状にする必要があります。例えば、寝台車のような客車はできる限り乗客の収容数を多くするため、三等寝台(B寝台)では三段式寝台を備えていました。これらの車両では、最低限の居住性を確保するために、屋根部分は車両限界いっぱいにまで広げた形状となり、屋根は円弧を描き、そして深いものでした。しかし、貨物を輸送するコンテナでは、このような円弧を描いた形状は使えません。

 

荷主の要望や、重量の割にかさばる貨物を輸送するために、一部のコンテナは特例として規格外のサイズが認められるようになった。これは、床面高さを低く抑えたコキ100系が登場した事によるもので、写真のU33A形コンテナもその一つである。規格外を示すために「ハローマーク」と呼ばれる標記のほかに、「コキ100系積載限定」と注意を喚起する標記も記されていた。20フィートコンテナからは、緊締装置はツイストロックになり、中央部にはなにもない。(©Gazouya-japan, CC BY-SA 4.0, 出典:Wikimedia Commons)

 

 コンテナのメリットの一つとして、貨物駅などに留置するときにはコンテナ同士を積み重ねることができます。それを可能にするためには、客車のような円弧状の形状ではなく、屋根部分も平たい直方体にする必要があります。この形状にしなければならないため、2,500mmを超える高さをもつコンテナは、日本の鉄道輸送では非常に難しかったのです。

 とはいえ、ISO規格の海上コンテナを鉄道で輸送することができれば、営業収入が得られるのですから、こんなチャンスを逃す手はありません。

 そこで、標準サイズの高さをもつISO規格コンテナを積載することを可能なコンテナ車として、JR貨物はコキ100系を開発したのでした。

 

《次回へつづく》

 

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