旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

なぜ超低床コンテナ車を追求し続けるのか【6】

広告

《前回からのつづき》

 

blog.railroad-traveler.info

 

 超低床貨車の最大のメリットは、ISO規格の海上コンテナの中でも、ハイキューブコンテナと呼ばれる高さ6ft9in、2,896mmのコンテナを載せ、建築限界に支障することなく鉄道で輸送できることです。

 その反面、デメリットも多くあり、その床面低くするために通常よりも直径の小さい車輪を使った特殊な台車を装着しなければならず、高速で走行すれば車輪の回転数も通常の車輪よりも多くなり、車軸の発熱量が多くなることから最悪の場合は車軸焼けを起こす危険性をはらんでいることです。また、ボルスタレス式空気ばね台車とならざるを得ないことから、空気ばねに圧縮空気を送り続けなければならないため、元空気だめ管の引き通しをしなければならず、連結開放作業の手間も増えます。

 加えてISO規格海上コンテナの輸送を主体に合わせたため、車体長は16,000mmと一般のコキ車よりも短くなることや、日本の鉄道輸送で最も多く使われているJR規格の12ftコンテナを載せられない、載せられても3個までと輸送効率を下げてしまうことが懸念されています。

 それ故に、超低床貨車の製造コストはコキ100系よりも高価になり、運用コストも高くなるため、ISO規格海上コンテナの輸送が一定量以上が見込めなければ、JR貨物としてもビジネス的には「ただ赤字を生み続ける」だけの存在であり、あまり手を出したくないのが本音だと考えられます。

 もっとも、国鉄時代からISO規格海上コンテナの陸上輸送に参入し、それを鉄道で輸送することは長年の課題であり、大げさに言えば「悲願」だったといえます。それだけに、民営化後はやい時期から超低床貨車の開発を何度と繰り返してきたものの、小径車輪に由来する車軸の発熱というもっとも大きな課題に取り組みながらも、根本的な解決には至っていないといえます。これが、冒頭にお話した「これを解決できれば、社長賞ものだよ」という先輩の冗談とも本気とも取れる言葉に表れたといえるでしょう。

 また、JR規格のコンテナと比べ、ISO規格海上コンテナはサイズだけでなく重量も重いものが多いのが実態です。サイズ、重さともに耐えうる構造のコキ車となれば、頑丈に作らざるを得ず、その構造も一般のコキ車とは大きく異なり、製造コストも嵩むのは容易に想像できます。

 

国鉄時代以来、ISO規格コンテナを貨物列車で輸送することは悲願ともいえるものだった。コキ100系はISO規格コンテナに対応したことで、様々な貨物を輸送することを可能にした。写真はISO規格のタンクコンテナを載せるコキ106形で、一見するとJR規格タンクコンテナのように見える。また、所有者が日本石油輸送JOT)であることからも、輸送モードの多様化に貢献できたといえる。一方で、ハイキューブコンテナは車両限界の関係から非常に難しく、民営化後、JR貨物が超低床コンテナ車の開発に挑む要因となったといえる。(©Chatama, CC BY-SA 3.0, 出典:ウィキメディア・コモンズ)

 

 それでも、ISO規格海上コンテナを鉄道で輸送することを、国鉄時代から大きな課題としてきたJR貨物も、ビジネス的に収益が得られないと考えるようになると、超低床貨車の開発から半ば手を引いたように途絶えました。2016年に登場したコキ73は、コキ72以来、実に20年ぶりの開発だったことからも、それが窺えるといえます。

 しかし、社会や経済の状況は2000年代、2010年代と追うごとに大きく変化していきました。特に2010年代後半に入ると、トラックドライバーのなり手不足やドライバーの長時間労働規制が叫ばれるようになり、国としても海上コンテナの陸上輸送をトラックから鉄道へと移行を推進し、同時に業界も法令遵守のためにほかの輸送機関へ移転させなければならなくなりました。

 これらのことが背景となり、一度は製作されたものの、量産化も営業運用もされることなく宙に浮いたままになっていたコキ73を引っ張り出し、おそらくはデッドストック状態になっていた3両も車籍編入させて運用に充て、ようやく日の目を見ることができるようになったと考えられます。とはいえ、JR貨物はコキ73の高いコストと運用効率の悪さの前に消極的な姿勢だったため、政府による海上コンテナの低床貨車搭載輸送の実証実験がなければ、このように営業運転に充てられることもなかったかもしれません。

 実際、JR貨物の2023年度事業計画の中に、コキ73の増備計画はなく、国交省の「今後の鉄道物流のあり方検討会」の席上では、コキ73のような車両価格、メンテナンスコストが非常に高いため、これを普及させるのであれば政府による支援がなければビジネスとしてペイできないといった発言があったほどでした。それほど、コキ73のような超低床貨車は車両価格が高価で、運用にも高いコストがかかる車両だといえるのです。

 国鉄時代から、ISO規格海上コンテナの鉄道輸送を目論見、民営化後、何度も開発と試作を繰り返してきた超低床貨車は、その実用化を追求し続けたものの、高いコストの前に諦めざるを得なかったといえるでしょう。

 

《次回へつづく》

 

あわせてお読みいただきたい

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info