《前回からのつづき》
ここからは筆者の私見になります。
筆者が鉄道職員時代に、コキ70やコキ71が製作された時に考えたのは、どうしてそこまで小さい車輪の台車を使った設計に拘ったのか、ということでした。確かにFT11系列のような小径車輪を使った小型台車であれば、車両本体の設計はシンプルになるでしょう。しかし、車両本体の設計がシンプルで価格的にも抑えることができても、特異な台車を装着してそこにコストが集中すれば、結局のところ車両全体の価格を押し上げることになります。
イギリスのコンテナ貨車の一例。床面の高さは低く抑えられているため、連結部は他車と同一になるように高さが異なっている。車両限界が異なるのでそのまま日本の鉄道に適用できるとは限らないが、台車の車輪径はコキ70形以来のような小径車輪ではなく、ある程度の大きさをもっていることが窺われる。(©Geof Sheppard, CC BY-SA 4.0, 出典:ウィキメディア・コモンズ)
何より、鉄道車両は車両本体価格がたとえ安価だとしても、車両の保守にかかる手間やコスト、そして軌道への負担による保線にかかるコストが高くなってしまえば、結局「走らせれば走らせるほど収益を削いでいく」ものになってしまいます。それでは本末転倒です。
アメリカの海上コンテナ輸送は、輸送効率を極限まで追求した「ダブルスタックカー」というコンテナ車が運用されています。言葉通り、コンテナをダブルスタック、すなわち二段重ねして輸送する車両です。建築限界の大きいアメリカならではの発想ですが、一段目のコンテナは車両本体に設けられた「穴」に落とし込む形で積載されます。
このダブルスタックカーで特筆されるのは、連接台車を使ったユニット方式が採用されていることです。コンテナは車体の穴に落とし込むため、コンテナ自体はレール面からかなり低い位置に載せられます。しかし、落とし込み方式であるために、台車は一般の貨車と変わらないものが装着されているのです。そして、なるべく編成中に無駄が生じないように、ユニット内では連接台車を採用していますが、貨車用の連接台車は旅客車に比べれば構造がシンプルで、台車本体は同じく一般の貨車と変わらないものです。
アメリカのダブルスタック・コンテナ貨車の一例。ISO規格40ftコンテナを2個積みするという、日本では考えられない積載方法を採用しているが、建築限界が大きいアメリカならではの車両である。車体間に連接台車を備え、コンテナを積載する部分はバスタブのような落とし込み構造になっている。日本の鉄道ではこのような車両を運用することはできないが、重量物であるコンテナを積載しながら連接台車を装着することができるのであれば、検討の余地があるといえる。もっとも、連接台車は検修や運用に要する手間などが異なるため、これらの課題を解決する必要がある。(©Slambo at en.wikipedia, CC BY-SA 2.0, 出典:Wikimedia Commons)
筆者はここに、超低床貨車でなくてもISO規格のハイキューブコンテナを鉄道で輸送することが可能な貨車のヒントが隠されていると考えます。
ダブルスタックカーのような落とし込み構造にするためには、コンテナの幅を超える大きさの車体が必要ですが、日本の鉄道の建築限界ではこれは難しいことです。そこで、落とし込みではなく、台車部分は通常の高さとし、コンテナ積載部だけを低くする方法が考えられます。これは、大物車(シキ車)によく見られる方法で、特大貨物輸送にも使われているので、実績がある方法といってもいいでしょう。
そして、これをユニット方式にし、他車との連結部分、すなわちユニット端部の台車部分は通常の高さにし、ユニット間の台車は連接方式にすることで、コンテナ積載部を広くとることが可能になるのです。
こうすることで、台車は小径車輪を使い製造、運用ともにコストの嵩む小型台車ではなく、通常の貨車と共通の台車を装着することが可能になり、コストもある程度削減することができると考えられます。
問題は、積載できるコンテナの数です。
規格が異なるコンテナを共通で載せるのですから、この部分が非常に難しいともいえます。海上コンテナ、それもハイキューブコンテナも載せることができ、しかもJR規格のコンテナも載せることができるという、ある意味欲張った仕様ともいえますが、国内の鉄道輸送ではJR規格が数多く使われているので、仕方のないことといえます。
そこで考えられるのが、1両あたりに何個載せることができるかではなく、1ユニットあたりに何個載せることができるかという発想の転換です。
ISO規格のハイキューブコンテナで、日本国内の道路で輸送可能な最大サイズは40ftです。鉄道輸送では道路の規制を気にする必要はありませんが、貨物駅と荷主の間は一般の道路を使うことになるので、40ftを最大サイズとしておけば問題ありません。そして、車両の低床部はこの40ftコンテナを載せることが可能な長さを確保すればよいのです。そうすると、低床部はコンテナサイズの12,192mm必要になりますが、ぴったりのサイズでは荷役時にコンテナを損傷する恐れがあるので、これに余裕を持たせて仮に13,000mmとします。すると、この部分には12ftコンテナを3個載せることができます。しかし、1両につき12ftコンテナが3個では、さすがに輸送効率が極端に下がってしまいます。そこで、15,500mm程度にすることで、12ftコンテナを4個載せることが可能になります。
さて、台車部分は必要最小限に抑える必要があるでしょう。ユニット端部は通常の台車を装着するので、デッキ部分600mmを含めて2,500mm程度は必要になります。また、ユニット中間部は連接台車となるためこれほどの広さは必要ではなく、1,000mmもあれば十分と考えられます。ユニット端部の車両は合計で3,500mm=3m50cmのデッドスペースが生じてしまいますが、これを度外視することで、1両の長さは19,000mm程度になると予想できます。
そして、中間ユニットの車両は両端が連接台車なので、それぞれ1,000mmずつ、合計で2,000mm程度の台車部分を設け、あとはコンテナを積載する低床部とすればよいので、車体長は17,500mmに抑えることができます。そして、この車両を5両1ユニットとすると、12ftコンテナは合計で20個積載でき、コキ100系4両分に相当します。あとは車両の長さの問題ですが、5両1ユニットで19,500mm✕2+17,500mm✕3=90,500mmとなり、コキ100系の中で数が多く1両単位での運用がされているコキ106では20,500mm✕4=82,000mmとなり、ここで提示する連接台車を装着した車両と比べ、8,500mm=85cmの差ができる程度になるのです。
もっとも、これはあくまでも机上の空論であり、連接台車のメリットとデメリットも考慮しなければなりません。とはいえ、連接台車を装着した貨車を運用した実績はあり、国内では太平洋石炭販売輸送が保有し運用したセキ6000(国鉄のセキ6000とは異なる)、アメリカではダブルスタックカーといった実績もあるので、その実現は難しくないといえます。また、台車は標準サイズのものを装着するので、小径車輪のように高回転による車軸発熱といったことに悩まされることなく、枕ばねも通常のコイルばねを使うことができ、コキ100系など主力車両でも使われている台車との共通化も可能になるのです。
一方で、ユニット車となるので、運用上の制約も出てくるかも知れません。実際、現場ではユニット車は使いづらいという話をよく聞きました。コキ100系が登場した当初は、4両1ユニットを組んだ車両が製作されていました。しかし、コキ50000のように1両単位で運用できる車両に慣れきった現場では、定期検査などで編成から抜き出すときなど、4両全てを切り離さなければならず、代わりの4両を手配して組み込まなければならないなど煩雑になったといいます。
最大40ftのISO規格の大型ハイキューブコンテナを輸送する区間は限られると想定すると、このような5両1ユニットを組む車両の運用も可能になると想定できるでしょう。とはいえ、あくまでもこれは筆者の構想であり、ともすれば机上の空論であることは承知していますが、このような考え方、発想の転換によって小径車輪を使わない車両によるハイキューブコンテナの鉄道輸送も可能になると考えられるのです。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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