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以前にも、このブログではJR貨物が開発した超低床コンテナ車である、コキ70を取り上げてお話させていただきました。
筆者が鉄道マンとして貨物会社で働いていた頃、支社に勤務する上層部の人々は、ほとんどの人が口癖のように、「貨車を低くできたら」と言っていました。貨車を低くすることで、これまで運ぶことができなかった容積が大きい貨物も、苦もなく載せて運ぶことができるからです。
その最たるものがコンテナ船に載せられる、いわゆる海上コンテナでしょう。海上コンテナにはいくつかの規格があり、その中でも「ハイキューブ」と呼ばれる背高コンテナは、いまやあらゆる物を載せて海外との貿易に活躍していますが、日本の港に陸揚げされた後は、港から荷受人のところまではトレーラートラックで運ばれるのが一般的です。
このハイキューブコンテナを鉄道で運ぼうと目論んだのが、国土交通省でありJR貨物だったのですが、残念ながらこれに対応できる貨車がありませんでした。当時の主力であるコキ50000に載せると、一般的な高さの海上コンテナですら建築限界に入ってしまいます。こうなると、いくら海上コンテナを鉄道で輸送しようといっても、それは絵に描いた餅に過ぎません。
こうしたことから、常々「貨車を低くできたら」という呪文にも近い言葉が出てきたのです。
JR貨物が開発した超低床貨車の第二弾であるコキ71は、唯一実用化に漕ぎ着けた車両だった。貨車を超低床にすることで、コキ100系でも載せることができなかった超背高コンテナなどが積載可能になり、ISO規格海上コンテナでも「ハイキューブ」と呼ばれるものも輸送可能になるなど、JR貨物としては何としてでも実用化したかった。(コキ71-5 笠寺駅 2014年8月2日 筆者撮影)
貨車を底床化するためには、いくつかの方法があります。最も簡単なのは、台車部分は通常の高さにして、コンテナを載せる部分だけを底床化する方法です。例えそれが100mmという一見すると取るに足らないような長さでも、コンテナの内容積を増やすことが可能になります。コキ50000系では載せることができなかった20㎥の容積をもつコンテナは、床面高さを100mm低くしたコキ100系なら載せることができるようになったのはその好例でしょう。まして、コキ100系よりもさらに低くした床面高さ700mmなら、その可能性は大きく広がるのです。
ところで、昔から自動車は鉄道貨物にとって、最大の「お得意様」でした。人々の移動手段において、鉄道は第一選択肢でしたが、その座を追った張本人である自動車が貨物輸送のお得意様というのはなんとも皮肉な話です。とはいえ、一度に大量に、そして長距離を輸送するためには、鉄道貨物は最も都合のよかった方法だったのです。
その最大の貨物である自動車は、1960年代は多くがセダンとよばれる乗用車タイプでした。今日ほど自動車技術も発達していなく、エンジンそのものも基本的な性能しか備えていない当時としては、車体サイズも今日と比べて小さく、そしてエンジンそのものの排気量は出力も小さかったため、小型セダンが数多く売れていたのです。
この小型セダンを貨車に載せるために、国鉄は自動車輸送に適合させら車運車ク5000を製造し投入しました。1両につき10代の自動車を運ぶことができるク5000は、自動車メーカーに歓迎され、ついには専用の列車が設定されるほどでした。
時代の流れとともに自動車の製造技術も向上していきます。小型セダンが中心だった自動車市場も、エンジンの高性能化とともに車体サイズも徐々に大きくなっていき、セダンだけでなくワンボックスカーやライトバンなど多様になっていきました。1990年代に入ると、SUVと呼ばれるカテゴリーの自動車が人気になり、セダンタイプの乗用車も鉄道輸送が全盛だった頃に比べてサイズも大きくなっていたため、もはやク5000に載せることができる車種も限られてくるようになります。
また、JR貨物も車扱輸送は非効率的なので、徐々にですがコンテナ化を推進していました。コンテナであれば、専用の貨車ではなく汎用的に使えるコンテナ車だけを運用すればよいので、製造・運用コストを削減できるのです。
とはいえ、国鉄時代からお得意様だった自動車輸送を、コンテナに載せられないからという理由で断ってしまうことは、結局国鉄時代と何ら変わらない「殿様商売」になってしまい、民営化した意味がありません。それどころか、ビジネスチャンスを逃すことになってしまいます。
そこで、ワンボックスカーやミニバンは無理でも、SUV程度の自動車なら載せることができるコンテナを開発しました。しかし、ミニバンのような車格の大きな自動車を載せるとなると、コンテナの高さを大きく取る必要があります。床面高さを1000mmにまで低くしたコキ100系でも、SUVを載せる事ができるコンテナを載せることはできません。
《次回へつづく》