旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

なぜ超低床コンテナ車を追求し続けるのか【1】

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 筆者が鉄道職員時代、「この問題を解決できれば、社長賞ものだ」と言われていたことがあります。本社技術部に集う優秀な技術者たちをもってしても、長年解決できない「難問」の一つとして、超低床貨車の実用化があったのです。

 1987年の分割民営化によってJR貨物が設立されて以来、超低床貨車の開発が繰り返され、その実用化は悲願といっても差し障りのないことといえるでしょう。そして、超低床貨車が実用化されれば、コンテナ輸送を劇的に変えるとさえ言われていました。

 筆者が入社した1990年代初め頃はコキ70が、しばらくしてコキ71が開発され、退職して間もなくコキ72がつくられました。しかし、コキ71を除いていずれも開発が難航し、実用化にこぎつけるには至りませんでした。唯一、定期運用をもつことができたのがコキ71で、これは「カーパック」と呼ばれる自動車専用コンテナを載せるためのもので、いわば「例外」といえるものでしたが、それでも実用化に漕ぎ着けたものの、その運用期間は短いものでした。

 JR貨物が運用するコンテナは、国鉄時代に制定された長さ12ft、積載荷重5トンのものが基本です。一般に12ftコンテナと呼ばれるもので、日本の鉄道貨物輸送で最も多く使われています。この、12ftコンテナは日本では当たり前の大きさで、本洗浄を走行する貨物列車に数多く載せられ、街中でも貨物駅から荷主のもとへと往復する通運事業車のトラックに載せられている姿を多く見かけます。

 

国鉄が1959年に始めたコンテナ貨物輸送では、長さ11フィートの1種コンテナが使われた。後にISO規格に対応した2種12フィートへと移行するが、国際的に観ても日本の鉄道コンテナは稀な規格といえる。(©Gohachiyasu1214, CC BY-SA 4.0, 出典:Wikimedia Commons)

 

 しかし、このJR貨物では標準的となっているサイズの12ftコンテナも、国際的に見るとそれは「規格外」のコンテナです。言い換えれば、日本の貨物輸送に合わせた独自のサイズで、誤解を恐れずにいえば「ガラパゴス化」したコンテナともいえます。

 国際的に流通しているコンテナはISO 668という国際規格に則ってつくられています。この規格でつくられたコンテナは、コンテナ船に載せて世界各国の物流に使われることを前提としているため、国によってサイズがまちまちではコンテナ船に効率的な積載ができないことなどを考慮したものといえます。

 

国内航路(内航)のコンテナ輸送では、写真のように12フィートサイズのものも使われているが、国際的には稀なものといえる。これは、日本の物流単位が海外と比べて小単位であることによるもので、国鉄JR貨物のコンテナもこの実態に合わせたために、11フィート、12フィートのものが主流となった。(©Gazouya-japan, CC BY-SA 4.0, 出典:ウィキメディア・コモンズ)

 

 このISO 668規格でつくられたコンテナのうち、もっとも小さいサイズのものは長さ5ftで、次に10ftとなり、あとは10ftごとに長くなっています。例外的に6ft5インチというサイズも設定されていますが、実際にはあまり使われることがないようです。また、これらのコンテナのうち、20ft未満のコンテナもまた、国際的な物流単位としては小さいため、これもまた使われることが少ないものです。

 そのため、運用されているISO規格コンテナのなかで、もっとも小さいサイズは20ftのもので、これは日本国内でも多く見かけることができます。そして、JR貨物の鉄道コンテナにも20ftのサイズが設定されていて、通運事業者を中心に私有コンテナが数多く存在します。また、JR貨物も30D形など数こそ少ないですが、自ら製作・保有して運用しています。

 一方、ISO規格コンテナで一般的に運用されているものでは、最小でも20ftが中心ですが、それよりも大きいサイズのものも数多く使われています。30ftや40ft、そして最大のものは45ftとなり、m換算では13m以上にもなるのです。

 これらISO規格コンテナは、コンテナ取扱港からコンテナ船に載せられます。コンテナが物流でもっとも重宝されるのは、発送人が指定した場所で貨物を積み込み、それをトラックや鉄道、船舶などといった長距離の輸送手段を経て、荷受人が指定した場所まで運び、貨物を降ろすことができることでしょう。かつて国鉄がコンテナのキャッチフレーズとして謳った「戸口から戸口へ」そのもので、特殊な荷役設備や鉄道線路などを必要としないため、発送場所や到着場所が港湾部や貨物駅のそばでなくても貨物の受発送ができることが最大のメリットなのです。

 こうしたことから、例えば輸出入貨物の多くはコンテナに積み込まれ、コンテナ船を使って世界各地へと送ることが可能ですが、コンテナ船が発着するコンテナ取扱港までは、鉄道やトレーラートラックを使う必要があります。日本では、ISO規格コンテナの輸送の大多数をトレーラートラックが担っています。取扱港に隣接した倉庫との間の短距離から、内陸部などにある工場や倉庫などといった長距離まで、それらがISO規格コンテナを運んでいるのです。

 しかし、数多くのトレーラートラックが走っている状況の中で、特に首都圏をはじめとする大都市圏の交通渋滞や、排気ガスによる大気汚染とそれに起因する健康問題、さらに温室効果ガスの一つとされる二酸化炭素の排出量など、様々な問題が顕在化したことから、1990年代からモーダルシフトが叫ばれるようになりました。また、近年では2024年問題とも言われるドライバーの労働時間規制や、ドライバーの人手不足など、様々な課題が立ちはだかるようになりました。

 そこで、これらの一部を鉄道に担わせようと考えられたのでした。

 ISO規格コンテナを鉄道で輸送するようになれば、JR貨物にとっても大きなビジネスチャンスとなって収益が見込めます。特に国鉄時代からトラックにシェアを奪われ、輸送量が激減したままの状態で民営化によって設立したJR貨物は、その当初から収益が少なく赤字を出しやすい体質であることには変わりなかったため、少しでもこれを改善できる輸送サービスを欲していました。

 しかしながら、国も後押しをするモーダルシフト、それもJR貨物が特異とするコンテナ輸送の需要を拡大するチャンスともいえるISO規格コンテナの鉄道輸送を実現させるためには、大きな壁が立ちはだかるのでした。

 

日本石油輸送JOT)が保有するISO規格20フィートドライコンテナは、標記類から分かるように国際航路(外航)輸送に用いられるとともに、JR貨物のコンテナ貨車にも載せられ輸送される。このように、海外では20フィートが基本単位となっているので、これを鉄道で輸送するために対応した貨車が開発されることになった。(©Gazouya-japan, CC BY-SA 4.0, 出典:ウィキメディア・コモンズ)

 

《次回へつづく》

 

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