旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

日鐵ロンチキを捉える

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 最近は、工臨と呼ばれる臨時工事列車が関心を集めているようですが、「工事列車」と呼ばれるだけあって、旅客会社が自ら使用するレールや砕石を、自社の貨車と機関車で運ぶことが目的です。

 その貨車や機関車も、残念ながら老朽化が進んでいることや、国鉄時代以来の機関車+貨車という車両による列車は、乗務員の確保の問題や、運用自体の問題もあり、徐々にその数を減らしていき、代わりにレール輸送や砕石輸送の専用気動車に代替えされつつあります。

 一方、レール自体は鉄道会社が自前で造ることはできません。レールを製造する製鉄会社が製品として出荷し、鉄道事業者に納められています。そのレールも、定尺レールと呼ばれる25m〜50mのものが出荷されるのがほとんどで、鉄道事業者に納品されたあとに溶接加工してロングレールにされます。

 そのレール輸送。国鉄時代は事業用貨物として扱われていましたが、分割民営化後は一般貨物としての取扱に変わりました。要は、全車は自分のところで使うものだから、自分で持っている機関車と貨車を使って、自分で運ぶから輸送にかかる運賃は当然無料。ですが、後者はレールを製造する製鉄所に隣接している場合は別として、よその会社の線路の上を走らなければならないため、自前の車両で運ぶことはできません。そのため、製鉄所から荷受人に引き渡されるまでは、他の貨物と同じ扱いにして、その輸送はJR貨物が担うので運賃は有料、ということにしたのでした。

 今日、日本でレールを製造しているのは日本製鉄とJFEスチールです。日本製鉄は新日本製鉄住友金属がが経営統合してできた製鉄会社で、レールは主に北九州市の八幡にある製鉄所でつくられています。JFEスチールもまた、2000年代に入って経営統合してできた会社で、かつては日本鋼管川崎製鉄という製鉄会社でした。JFEスチールでつくられるレールは広島県福山市にある製鉄所でつくられています。そして、どちらの会社も製品であるレールはチキ車に載せられて出荷されていきます。

 変わっているのは日本製鉄でつくられているもので、2014年から150mのロングレールを製品として販売していることです。従来は製鉄所でつくられた定尺レールを鉄道事業者に納品し、鉄道事業者が自前で運営するレール加工施設で溶接していましたが、そうした手間を省くとともに、最初から150mのロングレールにすることで品質を高めることを目的にしています。

 そのロングレールですが、鹿児島本線黒崎駅を発駅として、遠路はるばる関東地方にあるJR東日本のレールセンターへと運ばれる列車があるのです。

 

 

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8075レ(EF65 2094〔新〕+チキ5500) 2018年8月8日 新鶴見信号場 筆者撮影

 

 そのロングレールを1000km以上の距離を運ぶ列車が、今回ご紹介する写真の「ロンチキ」ことレール輸送列車です。

 一見するとレールを載せている貨車はコキ車にもにていますが、れっきとした長物車です。ただし、国鉄から継承した多くの長物車は黒色に塗られていますが、こちらはエメラルドグリーンに近い色で塗装されています。

 長物車の形式はチキ5500ですが、このエメラルドグリーンに塗られたチキ5500は、1992年に国鉄から継承したチキ車の増備としてつくられました。後にロンレール輸送が決まると、チキ5500だけでは足りないので、チキ5400とチキ5450が新たに追加で作られました。

 チキ5500は国鉄時代につくられたチキ5500とほぼ同じ仕様ですが、台車はTR63からコキ100系と同じFT1を履いています。従来のチキ5500の最高運転速が85km/hであったのに対し、95km/hで走行できるので高速貨物列車Cとしての運転も可能になりました。

 それにしても、150mもの長さのロングレールを積むとなると、列車の長さもそれなりになります。この写真を撮影したときは、今のように踏み台を持って行くことがなかったので、筆者の背の高さほどあるフェンスの上から、無理矢理カメラのレンズを出しての撮影。そんなわけで、巧い構図で撮影することができずにご覧の有様です。結果、お尻が切れてしまいました。

 これだけの量があるロングレールを一度に運ぶとなると、見た目よりも相当な重さがあることでしょう。

 ところで、レールのことについてたまに質問を受けることがあります。

 それは、「レールはどうやって曲げるのか?」ということです。このロンチキもそうですが、貨車に載せたレールがカーブを通過する時、レールが曲がらなければそこを通過することはままなりません。また、軌道に敷いたレールは何も直線ばかりではなく、カーブのところもあり、そして分岐器ではかなりのきついカーブに曲げなければなりません。

 答えは、「レールは曲がるんです」。いえ、人の一人の力では無理ですが、レール交換や分岐器交換では、直線のレールも大勢の保線作業員が力を合わせて曲げています。ロンチキの場合は人の力ではありませんが、車体上にある締結装置がカーブを通過するときにレールを曲げる役割をしています。そして、曲線を通過し終えると、レールは再びもとに戻るのです。

 レールは意外にも「柔らかい」のです。

 

 今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

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