《前回のつづきから》
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2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発目標」、いわゆるSDGsは国や個人、法人を問わず、その目標達成に向けてあらゆる努力をしていくことになります。日本の鉄道事業者も例外ではなく、企業イメージも相まって様々な施策を進めていくことになりました。
特に、鉄道事業者は列車の運行によって、従来のようにエネルギーをふんだんに使うことは許されず、必要最小限のエネルギーで効率性の高い輸送が求められるようになりました。エネルギーの消費量が少なければ、その分、二酸化炭素の排出量も少なく済み、ひいては環境の保護にも役立つ、というものです。
こうした考えが背景になり、鉄道事業者は残存する抵抗制御や老朽化が進んだチョッパ制御の車両を早期に置き換えるか、あるいはVVVFインバータ制御の機器に交換するなど、エネルギー消費量を抑えるための設備投資をしてきました。しかし、そのことは多大な資金を必要とし、特に広大な路線網をもち必要とされる私鉄にとっては大きな負担となりました。
そうした中で、西武鉄道は在来車から新しい車両への置き換えや、車両の更新による機器の交換を進めていましたが、過去のこうした施策が仇となって、対象となる車両が膨大で思うように進めることが難しかったのではないかと想像できます。また、コロナ禍による輸送量と運賃収入の激減は、設備投資に使うことができる資金も限られることになり、新車の製造による置き換えでは、政府が掲げるCO2削減目標を達成することを困難にしたといえるでしょう。
そこで、考えられたのは、かつて国鉄から大量の戦災国電や廃車発生品を受け入れ、整備した上で自社の戦力とする手法でした。いわば「歴史は繰り返される」とでもいいましょうか、安価に必要な数、そして求める最低限の性能をもった車両を導入するという、西武鉄道の十八番ともいえる方法は、80年近く経った現代に蘇ったのです。
問題はどこからどの車両を導入するかでした。
導入する車両の条件は、20m級4扉の通勤形車両で、かつVVVFインバータ制御を搭載しているものです。できれば、軽量車体でメンテナンス性に優れ、ある程度まとまった数で状態が良い必要があります。
かつて国鉄にそうした車両を求めたように、JR東日本から車両を購入することも考えられたと想像できます。2023年現在、JR東日本は横須賀・総武快速線で運用しているE217系から、E235系への更新を進めています。余剰となるE217系は20m級の大型車で、近郊形に分類されますがほとんどはロングシートなので、通勤形としても申し分ありません。また、VVVFインバータ制御ですが、電装品の更新を受けているので、機器類はさほど状態はよい方だと考えられます。
西武鉄道が残存する抵抗制御車を淘汰するため、時間とコストのかかる新製車両ではなく、他の鉄道事業者からVVVFインバータ制御を採用した中古車両を導入することで、エネルギー消費量を抑えるとともに、持続可能な開発目標を達成しようと目論んだのが「サステナブル車両」だった。その候補はいくつも考えられるが、JR東日本のE217系もE235系への置き換えが進められ大量の余剰車が発生するので、もしかすると候補に挙がっていたのかもしれない。(出典:写真AC)
しかし、E217系は長らく中距離列車として走り続けてきたため、足回りの老朽化が進んでいると考えられます。徹底した軽量構造の車体もまた、それなりに歪みなどの老朽化が進んでいるといえるでしょう。安価に購入できたとしても、そう遠くない時期に更新なり置き換えといった投資を迫られる可能性があります。
また、実現するかどうかは別として、インドネシアのPT KCIがE217系のまとまった購入を希望しているといったことも考えられます。JR東日本はこちらの商談を優先させ、E217系の国内譲渡は考えていなかったといえます。
このようなことから、西武はJR東日本からの車両導入は選択肢に入らなかったと考えることができるのです。
あとの選択肢は、大手私鉄からの車両譲受となります。
《次回へつづく》
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