旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

西武鉄道「サステナブル」車両の導入候補決まる 歴史を乗り越えた【5】

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《前回のつづきから》

 

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 1977年から製造された2000系は、西武初の界磁チョッパ制御車でした。しかし、この2000系をもって抵抗制御車を淘汰することには至らず、それどころか1993年から製造が始められた9000系は101系の廃車発生品を再利用したため、再び抵抗制御に回帰してしまいました。もっとも、9000系は混雑が激しくなる西武線において、従来の3扉車では乗降に時間がかかりダイヤの乱れの原因となっていたため、これを改善するために2000系と同じ4扉車を導入するために製造されたもので、言い換えれば101系の4扉化更新車のようなものでした。とはいえ、ここでも製造コストを極力抑える西武の伝統が堅持され、他社がVVVFインバータ制御の新型車を導入する中で、車体こそ新しいものの電装品や台車、ブレーキ装置は古いままの車両が登場したのでした。

 また、秩父線用の2扉車である4000系は1988年に登場しましたが、これもまた抵抗制御を採用しています。9000系と同様に101系の廃車発生品を使い、勾配線区である秩父線で運用するため抑速ブレーキも同じく装備しています。台車もFS372/FS072と、やはり101系のものが再使用されました。

 

西武鉄道は1977年に界磁チョッパ制御を採用した2000系を製造したが、つづく秩父線用の4000系では抵抗制御に戻ってしまった。6000系では最新のVVVFインバータ制御を採用するなど、新機軸を次々に導入して省エネ性能の高い車両を増備していった。しかし、1993年に登場した9000系は101系の廃車発生品を再利用したため、再び抵抗制御に戻ってしまう。これは、西武鉄道の路線網が広く、必要とする車両数が極端に多い事に起因すると考えられる。他方、同様に広大な路線網をもち、運用車両数も多い東武鉄道もかつては廃車発生品を再利用する方法で車両の増備をしていたが、9000系以降はそうした方法を採らず、界磁チョッパVVVFインバータ制御を積極的に採用して、電力消費量を抑え運用コストを軽減させていた。(©SEMISAYAMASHI, CC BY-SA 4.0, 出典:ウィキメディア・コモンズ)

 

 9000系、4000系のいずれも廃車になった車両の機器類や台車を再使用することで、製造コストを可能な限り抑えながら、時代に合わせ、路線環境に合わせた車両を増備することを可能にしました。一方で、運用コストの面では抵抗制御発電ブレーキの組み合わせは、保守にかかる手間は従来車と同じでそれほどかからないにせよ、電力使用量はチョッパ制御や回生ブレーキとは比べものにならないほど高くなるので、長期的に見ればそれはデメリットになると考えられます。

 このように、1990年代前半に至るまで、西武の車両の多くは旧来からの制御方式で製作されたため、2010年代に入っても多くが残存することになるのでした。そして、このことは、2010年代中頃から世界的に課題とされるようになった環境問題や資源問題など、「持続可能な開発目標」とは相反することと考えられるようになり、企業としてこれを放置することが年々できなくなっていったのでした。

 2000年からより省エネルギー性の高い車両となる20000系をはじめ、VVVFインバータ制御と普通鋼製よりも軽量なステンレス鋼製やアルミニウム合金製の車両を製作して運行に充てるようになりましたが、それでも2020年代に至るまで支線区を中心に旧来からの車両が残存し、これを早急に置き換える必要はあったものの、2019年末から世界を震撼させた新型コロナウイルスパンデミックは、鉄道事業者に大きな打撃を与え、新型車両これまでのように製造することすら難しくしてしまったのでした。

 

《次回へつづく》

 

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