旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

2024年問題で鉄道貨物輸送の「復権」はあるのか【4】

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《前回のつづきから》

 

 在来線の貨物輸送量を増やすことが難しいためか、近年、新幹線に貨物輸送を担わせることが議論されています。特にJR九州の初代社長で国鉄時代は技術畑を歩んだ石井幸隆氏は、新幹線に貨物輸送、いわゆる「貨物新幹線」構想を提唱しています。

 そもそも、東海道新幹線の計画当時は貨物輸送が計画されていました。これは、コンテナによる貨物輸送で、その想像図や模型まで製作されて様々な形で公開されていたので、国鉄もこれを実現させようと考えていたことがわかります。

 その証左に、大阪にある鳥飼車両基地に隣接して、本線を跨ぐ形の構造物が建設されていましたが、これは車両基地に隣接して建設が計画されていた貨物駅への連絡線となる高架橋だったと言われています。また、現在の東京貨物ターミナル駅も大井車両基地のすぐ隣にあり、加えて大阪貨物ターミナル駅も同様に鳥飼車両基地に隣接していますが、これもまた貨物新幹線の駅用地として確保されていたものが、新幹線開業後も貨物輸送が実現しなかったため未使用だったのを、在来線の貨物駅用地に転用したものだったのです。

 このように、ごく一部ですが構造物が建設され、しかも貨物駅となる用地も確保していたにもかかわらず、結局は貨物新幹線構想は実現しないまま今日に至ります。

 この国鉄の構想に対して、建設費を調達するため世界銀行から融資を受ける際の方便だったという説がありますが、現実には新幹線の軌道にかかる荷重の基準(活荷重)が、貨物列車の荷重基準となるN標準活荷重と、旅客列車の荷重基準となるP標準活荷重の二つが定められていたことや、貨物用の用地を確保していたことなどから、新幹線による貨物輸送の実現に向けて検討をしていたことがわかります。

 くわえて、これはあくまでも筆者の推測ですが、1959年に始められたコンテナ輸送に使われたコンテナは、1種11フィートの5000形などが使われていました。確かに11フィートのコンテナでは内容積が小さく、ISO規格に合致しないいわば日本国内の鉄道だけにしか使えないもので、荷主の要望などもあって1971年から長さを12フィートに改めた2種コンテナを量産、運用するようになりました。この12フィートコンテナはm換算をすると3,658mmとなり、新幹線の車両限界に定められた車両幅に近くなります。もし、貨物新幹線が実現していたとすれば、この2種コンテナを在来線の積み方とは90度向きを変えることで積載が可能になる計算ができるので、やはりこの頃も国鉄は検討を続けていたのではないかと考えられます。

 

東海道新幹線が計画されたとき、夜間に貨物列車を運行しようとする構想があった。実際、東京貨物ターミナル駅は多い車両基地に隣接し、大阪貨物ターミナル駅も鳥飼車両基地に隣接している。この広大な鉄道用地を取得した背景には、ここに貨物新幹線のターミナル駅を建設する計画があったといっても過言ではない。また、貨物新幹線用の車両も写真のように模型まで製作されていたが、実際には計画は実現せず今日に至っている。(©Nkensei, CC BY-SA 3.0, 出典:Wikimedia Commons)

 

 しかし、新幹線による貨物輸送は実現しなかったばかりか、過密ダイヤとなってしまった現代において、もはや貨物新幹線を運行する余地はほとんどないと言っていいでしょう。

 もし、国の政策として新幹線に貨物列車を走らせるとなると、JR東海は真っ先に反対することが容易に想像できます。JR東海にとって、新幹線は会社の収入の大半を得る生命線のようなもので、その旺盛な需要に対応するため1時間あたり最大で16本の列車を運行しています。日中の時間帯でも1時間あたり9本、そのほとんどは最速達列車の「のぞみ」で、「ひかり」と「こだま」は1時間に2本ずつしか運転されていません。言い換えれば、速さこそ新幹線の売りであり生命線なので、そこへ重量が嵩んで最高運転速度の制限を受けるであろう貨物列車が入る余地はなく、ダイヤ編成上のネックとなるのでそれを受け入れることはないといえます。また、ほかの列車に影響を与えにくい深夜に貨物列車を運行することも構想されていますが、深夜は線路などの施設の保守作業が行われるので、やはり貨物列車の運行が難しいといえます。在来線ですら、貨物列車の運行に対してJR東海は厳しい態度を示すことが多いので、新幹線となるとなおさら難しいといえます。

 

東海道新幹線は、いまやラッシュ時は首都圏の通勤路線並の過密状態になり、日中でも相当な数の列車が運行されている。そして、毎時2本ずつの「ひかり」と「こだま」を覗いて、再速達列車である「のぞみ」を主体とした高速志向のダイヤ編成は、貨物列車を走らせる余裕はない。夜間の運行も、軌道などの保守作業に必要な時間を確保しなければならないことを考えると、かなりハードルの高い構想だと言わざるを得ない。(小田原駅を通過するN700A系「のぞみ」 小田原駅 2018年7月18日 筆者撮影)

 一方で、新幹線に専用の貨物列車の運行は難しいものの、旅客車の一部に軽量の貨物を積む「貨客混載」が試行されています。これは、ダンボールなどに詰め込んだ生鮮食品などを旅客車にある業務用室などに積み込んで輸送するというもので、JR東日本東北新幹線などで試験的に実施しています。

 また、2023年には上越新幹線で、1列車をすべて軽量の荷物専用として試験運行を実施しています。コロナ禍以降、旅客需要は以前のようにならないことや、今後、少子高齢化が進みさらに旅客需要が現象することなど、そして2024年問題に対応するため荷物専用の列車を試験運行することで、課題の洗い出しなどをしているとのことです。とはいえ、旅客車の座席などに載せるため、荷扱に手間と時間がかかるといったことが想像できますが、本格的に運用するとなると、ひょっとしたらかつての荷物列車のように、荷物を載せる設備をもった車両が登場するかもしれません。しかし、これらも軽量の貨物で、ロールボックスパレットのようなものに限られることから、かつて国鉄の荷物取扱駅で見られたような方法にならざるをえなく、トラックから降ろしてそれを列車に積み込む手間と時間がかかると想像できます。

 それでも、2024年問題を目の前にしたいまの状況で、この荷物専用新幹線は荷役の方法や専用車両の開発、列車の運行方法の工夫によっては、有効な手立てだと考えられます。

 

《次回へつづく》

 

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