旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

EF510 300番台の増備で去りゆく九州の赤い電機の軌跡【1】

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。 

 昨年(2023年)12月にJR各社から、2024年3月に実施されるダイヤ改正の内容がプレスリリースされましたが、JR貨物も同様にその内容を明らかにしました。 

 JR貨物第二種鉄道事業者であるため、基本的には旅客会社各社の線路を借りて運行するので、本線のダイヤを設定することができないため、列車の増発はなかなか難しいものがありますが、そうした中でも列車の速達性の向上や輸送力の増強、列車の運行体型の刷新など、ダイヤ改正のたびに顧客となる荷主の要望に少しでも応えようとする施策がなされてきました。 

 2024年のダイヤ改正では、東京―大阪間の列車の速達性がさらに向上され、下り65列車は東京貨物ターミナル駅大阪貨物ターミナル駅間を従来より59分短縮させ、8時間6分で結ぶことになるようです。ダイヤ編成上、5分を短縮させるのが難しいのが現実ですが、59分とほぼ1時間も短縮させるためには、様々な方策と努力が必要です。例えば、列車の運行上、直行する列車でも運転停車は欠かすことができません。機関士の交代は必ず行われるので、運転停車もまた必ず行われます。他の列車の運行上の都合から、貨物列車は時間調整のための運転停車も頻繁に行われますが、その場合は長時間に渡って停車する場合もあります。59分の短縮は、そうした運転停車の時間を大幅に削減したことで実現できたものですが、やはり旅客会社の都合によるものといっても過言ではないでしょう。 

 その他にも、輸送力の増強のため、コンテナ車の増結と積載可能なコンテナ数の増加や、従来から運行されている列車の運行系統を変更するなど、様々な方策がとられるようです。 

 これら列車の運行に関わるものだけでなく、設備投資についても発表がされました。 

 特にJR貨物の主力商品であり、荷主の大切な貨物を積載するコンテナは消耗も激しいことなどから、12ftドライコンテナである20D形と20G形は合計で2500個を増備、12ft通風コンテナのV19C形は400個を増備する計画です。また、駅における荷役作業に欠かすことのできないフォークリフトが50台、トップリフターは18台を新たに新製するなど、老朽取り換えも含めてもまとまった数の増備を計画しています。 

 そして、もう一つの「目玉」となるのが、やはり貨物列車を牽く重要な存在である機関車です。これまでも、JR貨物は年に数両ずつ、機関車を新製して国鉄から継承した車両を置き換えてきました。厳しい経営環境に置かれていることや、民間企業であること、さらに民営化されて株式会社になったとはいえ、株主は国という特殊法人であることなどから、国鉄時代のように「必要だから債券、すなわち借金をしてでも車両を新製する」ということはできないので、機関車の新製は年に数両ずつとし、これを長期に渡って続けることでじわじわと国鉄形車両を置き換えてきたのです。 

 そのため、今回のプレスリリースでもEF210形は8両を新製する計画で、既に20両以下にまで勢力を減らしたEF65形2000番台PF形や、JR貨物発足直後に新製されたEF66形100番台を置き換えていくことになるでしょう。2025年以降、同じような数のEF210形が増備されれば、国鉄形直流電機は数年以内に姿を消していき、民営化後の黎明期から貨物輸送を支えたEF66形100番台も風前の灯となることは間違いないと考えられます。 

 EF210形は直流機なので、置き換えの対象は直流器だけでした。一方、既に増備が終わっているEH500形は東北地方のED75形をはじめ、青函トンネル用のED79形を置き換えました。また、九州の関門間運用にも回ることになり、下関駅門司駅北九州貨物ターミナル駅間で運用されていたEF81形400番台などの関門仕様機に代わってEH500形が就き、押し出されたEF81形の一部がED76形の運用を置き換え、交流機であるED76形の一部を淘汰しました。 

 

EF510形300番台の量産が始まったことで、国鉄から継承した交流電機ED76形がその歴史幕を下ろすのも時間の問題になったといえる。しかし、最終増備車が落成してから既に45年、最若番の車両にいたっては既に50年が経っていることを考えると、置き換えは必須だと考えるのが自然だろう。写真はED76形に貼付された「JR貨物」の車籍銘板。(1991年7月 門司機関区 筆者撮影)

 

 このように、新型車両を短期間で大量に製作して、古い車両を一気に置き換えるJR東日本とは逆に、同一の車両を長期間に渡って少しずつ新製して、じわじわと古い車両を置き換えるという手法をとったJR貨物は、いよいよ発足から35年が経過し、国鉄形車両の全廃というゴールも見えてきたことになります。 

 ところで、直流機の国鉄形電機はすでに新鶴見機関配置のEF65形20両弱となりましたが、西に目を向けると九州の門司機関区には交流機のED76形と、交直流機のEF81形が今もなお健在です。もちろん、JR貨物も九州で運用されている国鉄形電機の置き換えをする必要性は理解していたことは考えられますが、保有していた電機の中で交流機で、九州島内のみで運用されていたED76形は走行距離も直流機に比べれば少ない方で、老朽化も進んでいなかったといえるでしょう。その結果、ED76形の置き換えは後回しになり、2020年代に入っても運用が続いているのです。 

 最終増備となった0番台第5次車、1000番台第3次車も製造から既に40年以上が過ぎ、老朽化が進んでいることは明らかでした。九州島内は交流電化であり、ここでのみの運用であれば新たに交流機を開発するのが妥当であり、当初はその方向で検討が進められていたようです。しかし、九州島内で運用されているED76形9両、これに加えてEF81形10両の計19両のためにわざわざ新型交流機を開発するのはコストパフォーマンスの面で不利になることから、既存の車両で交流電化に対応できるEF510形を九州島内に適した仕様に改めた300番台が2012年に新製され、その後各種の試験を経て2024年から増備して置き換えを進めることになったのです。 

 

《次回へつづく》

 

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