《前回のつづきから》
これまで概観してきたように、2024年問題を目前にした今日において、トラック輸送に代わって鉄道がそれを担い、政府が定めた10年後には現在の2倍を輸送するというのは、非常に課題が多く難しいといえるでしょう。言い換えれば、鉄道貨物輸送の「復権」には困難な道のりがあるといえます。
単純に貨物列車を増発させるというのは、ダイヤ編成上の問題であり、旅客会社にその権限がある現在の制度では非常に困難といえます。しかし、それは主として太平洋側の幹線の話であり、特に西日本の日本海側の路線、すなわち山陰本線はダイヤに余裕があると考えられるので、これを活用する方法が考えられます。
とはいえ、本線を名乗りながらも閑散なローカル線同然の山陰本線は、多くが単線かつ非電化で、軌道構造も重量の重い貨物列車が高速で走行するには貧弱なので、これを改良する必要があります。
自らが運行する列車は本数が少ない路線に、他社であるJR貨物が運行する貨物列車のために巨額の費用を投じて改良工事をするとは考えられません。それは、北海道新幹線の札幌延伸によって並行在来線として廃止する議論の中で、貨物列車を運行するためにこれを残すか否かで、いったいその維持費用を誰が出すのかということで揉めたことからもわかることといえます。
そこで国の政策として貨物の輸送量を増やすために、最国有化という議論も出てくると考えられます。しかし、それはかなり短絡的なものともいえるので、上下分離方式にすることも考えられるでしょう。加えて、低額に抑えられている線路使用料をある程度適正な金額にすることも考えられますが、JR貨物の経営問題にもかかわるので、同社が反対をすることは容易に想像できます。
他方、多くの公共交通機関の運賃は、ここ30年近く抑えられたままの常態が続いています。2018年に国鉄時代以来の貨物運賃を値上げしましたが、それでも値上げ幅は抑えられたままなので、これに手を付けることで線路使用料の適正化が可能になると考えられます。もちろん、荷主や利用運送事業者からは不満も出てくるかもしれませんが、例えば30ft20t積みコンテナ2個を輸送するとすれば、トラック2台分のドライバーの人件費に比べれば安価にできるかもしれません。(もっとも、ドライバーが得る給与が仕事に対して適正な金額であることが前提ですが)
また、新幹線による貨物輸送は、車両や荷役、駅設備、そして列車の運行ダイヤなど多くの課題があるのは既にお話したとおりです。しかし、新幹線のもつ高速性は貨物の到達時間を大幅に短縮させ、鉄道の強みである大量輸送ができるという点で、非常に魅力的であることは間違いありません。
国鉄が構想したようなコンテナによる輸送方法では、多くの設備と専用の駅、そしてこれに対応する車両の整備が必要になり、多額の資金を投じる必要があります。ダイヤ編成も、もっとも需要が多いと考えられる東海道・山陽新幹線には、貨物列車をいれる余地がないといえます。臨時列車のスジを使う手もあるかもしれませんが、繁忙期には臨時列車が多く運転されるので、かなり難しいといえるでしょう。また、頑張って貨物列車用のスジを入れたとしても、1日に1〜4本程度が限界で、多額の資金を投じても費用対効果の面から実現は非常に難しいことが予想されます。
2024年問題の切り札として、貨客混載が活発になってきている。上越新幹線でも1列車をすべて貨客混載輸送にした試験がおこなわれ、課題を洗い出す試みがおこなわれた。しかし、軽量で小型の貨物のみが載せられることや、専用の設備をもたない車両を使う点では、大量輸送という鉄道の強みを活かしきれることが難しい反面、新幹線の高速性は大いに活用できたといえる。(出典:写真AC)
一方で、JR東日本が実用試験を行った貨客混載は期待がもてるかもしれません。ただし、普通の旅客用車両では1列車あたりの輸送量に限りがあるので、あまり効率的であるとはいえません。やはり、かつての荷物車のように専用の設備を備えた車両を開発することで、可能な限り多くの貨物を載せることで、より効率的な輸送を実現する必要があると考えられます。また、積載する貨物も宅配便や郵便物、梱包された生鮮食品といった軽量なものに限定し、ロールボックスパレットを使うことでよりスムーズな荷役を可能にしなければならないといえます。
地上側の設備にも、相応のものが必要となります。かつて、国鉄の荷物取扱駅には、荷物を載せたトラックが発着できるスペースが確保され、ホームまで専用の通路を備えていたところもありました。現在の駅にはそうした設備はないので、これを新たに設置しなければなりませんが、荷物を取り扱う駅を限定すれば、設備にかかる費用も最小限に抑えることが可能かもしれません。
いずれにしても、2024年を目前に控え、残業上限規制の実施によるドライバーの不足は今よりもより顕著に現れることになるでしょう。トラックに代わって長距離部分を担うとされる鉄道への期待は高まることが予想されます。しかし、課題は山積みともいえる現状の中で、必要な制度の整備と、それに伴う施設などの整備を着実に進めていけば、もしかすると物流における鉄道の「復権」は、かつての全盛期の程ではないにせよ、姿や形を変えてそれが実現するかもしれません。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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