旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

悲運の貨車〜物流に挑んだ挑戦車たち〜 発想はよかったけれど技術が追いつかなかった冷凍貨車・レ90【4】

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《前回からのつづき》

 

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 国鉄の「冷凍品を貨物列車で輸送し、需要を取り込もう」という発想と、それに対応した冷凍品輸送用の冷蔵車の開発は、まさに時代を先取りした斬新なものだったといえます。それは、在日米軍の冷凍食品などの輸送から得たアイディアであり、冷凍食品を始めとする冷凍品は、日本の国民生活に欠かすことのできない存在になりうるという予想から出たものでしょう。たしかに、その発想と予想は的を射るものでした。事実、今日、私達の生活の中に冷凍品は数多くあり、それを輸送するコールドチェーンは物流の一つとして確立されています。

 しかし、これだけ斬新で先を読んだ素晴らしい計画も、ある意味、国鉄の「悪癖」によって台無しになったと筆者は考えます。それは、やむを得ないことなのかも知れませんが、国鉄の技術陣は「国産」にこだわったことと、以後の改良を諦めずに行わなかったことです。

 米国サーモキング社製の冷凍機と比べて、国産の冷凍機はとにかく故障が目立ちました。実績のある米国製を採用して一定程度の実績を上げつつ、国産冷凍機の改良と開発を続けていれば、この分野でのシェアは確立できたかも知れません。また、到達時間の短縮は、既に始められていた10000系高速貨車による特急貨物列車として、拠点間輸送方式を採用すれば、顧客からさらに歓迎されていたことでしょう。残念ながら国鉄はそれをせず、試作と試行の域を出ることをしませんでした。

 

国鉄時代は保冷品輸送を冷蔵車が担っていたが、車扱貨物輸送の原則全廃以後は冷蔵コンテナがその役割を担った。しかし、国鉄やその後身であるJR貨物は自ら冷蔵コンテナを保有することななくなり、今日では私有コンテナによって保冷品輸送が続けられている。(©TRJN, CC BY-SA 4.0, 出典:Wikimedia Commons)

 

 もっとも、1968年のダイヤ改正の頃には、国鉄の財政事情は悪化の一途を辿っていて、新たな技術開発に費やす余裕がなかったのも事実です。大量の車両の置き換えるために新製を続け、速達性の向上のために複線化工事を進めなければならず、無煙化の推進のために電化工事もするなど、とにかく莫大な費用がかかる事業が目白押しでした。そのような中で、冷凍品輸送用の貨車の開発に資金をつぎ込むことは、困難だったのかも知れません。

 また、鉄道による冷凍・低温品輸送は、コンテナ化された今日でも課題が多くあります。冷凍機を稼働させるための動力源の問題は、分割民営化によって設立されたJR貨物と関連企業によって、試行錯誤が続けられていました。冷凍機そのものは技術の発達によって安定した動作ができるようになりましたが、その動力源の確保は筆者が貨物会社にいた当時から頭の痛い問題でした。トラックとは異なり、車両単位あるいはコンテナ単位で冷凍機が必要になり、その動力源や燃料、さらには火災や故障時の対応や監視など、鉄道にしかない課題はなお試行錯誤がされているのが現状です。

 

冷蔵では鮮度が保てない貨物の輸送は、機械式冷凍装置を装備した冷凍コンテナによる輸送があった。しかし、12ft冷凍コンテナは装置の分だけ容積を占めることになり、容積も通常の18㎥や19㎥を確保できず、15㎥になるなど輸送量は小さかった。(©Gazouya-japan, CC BY-SA 4.0, 出典:Wikimedia Commons)

 

 このことを考えると、1960年代前半という冷凍機の技術が実用化されて間もない時期に、国鉄が新しい輸送形態として挑んだことは評価に値するといえます。そして、わずか10年、実際の運用では6年ほどしか活躍できなかったレ90は、決して無駄ではなく、国鉄が挑んだ新技術を具現化したものであり、後年にコールドチェーンの鉄道輸送という分野においてのパイオニアだったといえるのです。

 

分割民営化後、JR貨物は多様な輸送サービスを提供しようと、様々なコンテナを開発していた。その一つが「クールコンテナシステム」で、トラックの冷凍冷蔵車に対抗しようとした民営化直後の苦心が伺われる。写真のZG形コンテナは、事業用の発電装置を搭載したコンテナで、ここで発電した電気を各冷凍コンテナに供給するという「電源集中式」の中枢を担った。しかし、コンテナを積載するトラックなどにも同様の電源設備が必要になるなど設備面での不便さや、貨車への積み下ろし時に、各コンテナに電源コンセントを挿抜するなど運用面の不便さもあって短命に終わった。(©Gazouya-japan, CC BY-SA 4.0, 出典:Wikimedia

 

 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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