旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

電気釜+簡易貫通扉の「魔改造」の始祖?381系先頭車化改造車【4】

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《前回からのつづき》

 

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 381系は既にお話してきたように、急曲線が多く存在する線区において、特急列車の所要時間を短縮させるために、車体傾斜装置である自然式振子装置を装備した特異な特急形電車でした。

 中央西線の「しなの」と紀勢本線の「くろしお」、そして伯備線山陰本線の「やくも」の3つの列車にだけ使われていました。485系や183系のように汎用性よりも、運用する線区の事情を重視した車両だといえます。

 中でも「やくも」は381系が投入された最後の列車で、従来のキハ181系で運行されていた頃よりも大幅に表定速度を上げ、所要時間も短縮することができました。

 気動車時代の「やくも」は、岡山駅から伯備線を経由し、山陰本線出雲市駅、益田駅までの間を6往復運転されていました。グリーン車と食堂車も連結した11両編成と長大かつ堂々たるものでした。

 

夕暮れ近い伯耆大山(ほうきだいせん)の麓を走る381系。この光景が見られるのも、あと僅かとなった。(出典:写真AC)

 

しかし中国山地を越えて太平洋側と日本海側を結ぶ伯備線は、中央本線などと同様の山岳路線であり、勾配が連続し急曲線を抱える隘路でもありました。そのため、所要時間も食堂車が連結されるほど長く、速達性の向上による所要時間の短縮が大きな課題でした。

 1982年に伯備線山陰本線の一部の電化工事が完成すると、「やくも」はキハ181系から381系に置き換えられました。自然式振子装置を装備した381系は、勾配や急曲線をものともせず、表定速度を大幅に上げて所要時間を短縮することを実現しました。

 この時、急行「伯耆」が特急に格上げとなり、「やくも」は6往復から8往復に増発されるとともに、運転区間岡山駅出雲市駅間に短縮され、益田駅発着の列車は廃止となりました。

 電車化された1982年の「やくも」は、サロ1両を連結した9両編成で運転がはじめられました。キハ181系時代は最大で11両編成であったこと(キサシ181形を含む)を考えると、3両の減車となりましたが、それでも国鉄の特急としての威厳を保つ長大編成でした。

 その一方で、高速バスの台頭や航空機の大衆化などによる利用者の移転により、利用者は減少していき、利用率は低下していきます。ともすると、空席ばかりが目立つようになり、「空気を運ぶ」と揶揄された国鉄末期の優等列車に多く見られた状態になっていたと考えられます。

 国鉄はこの状態を座視しているわけにもいかず、輸送能力の適正化を「やくも」にも実施することになります。

 このような背景もあって、国鉄は381系にも短編成化のために必要となる先頭車を確保するため、中間車を先頭車へと改造する工事をすることになります。

 1986年のダイヤ改正で、伯備線山陰本線で運行されていた「やくも」の編成を短縮し、輸送能力の適正化と電車化以来8往復であったのを9往復に増発するための所要数を確保することなどを目的に、クモハ381形とクロ381形という2つの先頭車化改造によって登場しました。

 

中間に組み込まれているクモハ381形。国鉄の末期に登場した先頭車化改造であるクモハ381形は、貫通扉をもつ構造になった。国鉄は、閑散期は最小限の編成で、繁忙期はこれに増結する運用を想定していた。こうした運用は、改造の目的を十分に果たしているといえる。(クモハ381 岡山駅 2017年5月27日 筆者撮影)

 

 この二つの車両で最も大きな特徴は、その前面だといえるでしょう。従来、国鉄が特急形電車で先頭車化改造によって登場した車両たちは、在来の車両と同じ形の前面を切り継ぎする方法でした。例えば九州の「有明」「にちりん」用として製作されたクモハ485形は、種車であるモハ485形のデッキとトイレ、洗面所の部分を台枠ごと切断し、代わりに「電気釜」と呼ばれるスタイルの先頭部と運転台、機器室、そして乗降用扉を備えたデッキ部を接合しました。この前面はクハ481形1000番台とほぼ同じ形状のものが用意されたため、美観の点でも違和感のないもので、改造車と言われなければわからないほど仕上がりだといえました、

 ところが、「やくも」「しなの」用に改造された先頭車は、基本的な形状こそ「電気釜」スタイルの先頭部が取り付けられましたが、そこには1枚の貫通扉があるという、美観を度外視した機能重視のデザインに度肝を抜かされたものでした。

 

《次回へつづく》

 

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