旅メモ ~旅について思うがままに考える~

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電気釜+簡易貫通扉の「魔改造」の始祖?381系先頭車化改造車【5】

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《前回からのつづき》

 

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 1986年にモハ381形を種車に改造によって製作されたクモハ381形は、この年のダイヤ改正まで運用されていた「やくも」の編成から、サロ1両を連結したまま6両編成に組み替え、そこから捻出された車両を使うことにしました。381系を6両編成で組成する場合、4M2Tを組むことになります。既存の車種だけではTc+M+M’+M+M’+Tc’となり、サロであるTsを組み込むことができません。そのため、電動車ユニットの1つをMcにするか、グリーン車Tscにするかのいずれかを選択することになります。

 「やくも」用の改造車として、中間電動車のモハ381形を先頭車化改造をすることで制御電動車であるクモハ381形を製作することにしました。

 モハ381形の前位側を切断し、あらかじめ製造しておいた前頭部を接続する、国鉄でもっとも多く使われた工法が採用されました。この前頭部には運転台や乗降用扉とデッキも備えられていたもので、これ自体はクモハ485形などと変わらない方法でした。

 一方、その全面は既にお話したように、分割併合を考慮されていたため貫通構造とされましたが、その貫通扉は前面に大きな1枚のものが「むき出し」の状態で設置されていました。

クモハ381型は、国鉄末期に登場した数ある先頭車化改造車の中でも、その形状が独特であり、かつての国鉄特急形電車の栄光にこだわることさえ許さなかった、財政事情を大きく反映しているといえます。前面の貫通扉は、美観さえ無視した実用本位のもので、後に「魔改造」とも呼ばれる数多くの車両たちの「元祖」と感じてしまう。(出典:写真AC)

 

 従来、特急形電車の先頭車で貫通扉をもった構造のものは、両開きのグライドスライドドアに近い構造の外扉が設けられ、貫通扉を使うときにはそれを左右に分割する形で開かれると、その中に収納されていた貫通幌を引き出してこれを連結相手に接続、さらに内側にある貫通扉を開いて固定されるものでした。しかしこの方法では、分割併合をするときに外側の扉を開閉し、さらに貫通幌を連結、内扉を運転台などに入ることができないように固定させなければならないなど、連結解放の作業時には手間のかかる方法でした。また、こうした貫通扉は複雑な構造であるため、制作にかかるコストはもちろん、保守の手間も多くなるなどといったデメリットが多くありました。

 そこで、1986年に先頭車化改造を施す際、従来は重要視されてきた美観は度外視し、実用本位の構造とすることにしました。「電気釜」スタイルの前面デザインはそのままで、前面の貫通扉は急行形などと同様に1枚のものだけを設置、貫通幌は内蔵をしないで外付けにするなど、構造を大幅に簡略化しました。そのため、曲面を描いた美しい前面に非常に目立つ扉を1枚備えた平面に近い独特の形状になった代わりに、連結開放時の作業も大幅に軽減され、保守作業の手間も少なく抑えることを可能にしました。そして、何より改造と保守にかかるコストも軽減でき、巨額の債務を抱えた国鉄にとって、もはや「背に腹は代えられない」改造メニューだったといえます。

倉敷駅を発車していく特急「やくも」。出雲市方に基本編成を、岡山方に増結編成を組んでいるが、4両目には中間に組み込まれたクモハ381形の姿が見える。国鉄は、特急列車の短編成化による輸送力の適正化に努め、運用コストを軽減させるとともに、繁忙期にはこのように増結させて、輸送力を確保することにした。そうした運用を考慮したのが、中間に連結して貫通編成を組むことができるクモハ381形だといえる。(倉敷駅 2017年5月27日 筆者撮影)

 

 同様の改造車は「しなの」用にも製作されました。

 中央西線の特急「しなの」は、1973年に381系を充てて電車として2往復が設定されて以来、ダイヤ改正のたびに増発され、1982年には10往復にまで成長していました。それまでの「しなの」は所定で9両編成、閑散期にはモハを1ユニット編成から外して7両編成で運行していましたが、需要に対する連結両数の適正化と、旺盛な需要に対して臨時列車を増発する必要に迫られていました。

 国鉄は「しなの」を6両編成にすることを計画しますが、この場合、4M2Tで蘇生しなければなりません。しかし、381系のグリーン車は中間の付随車であるため、これを連結しようとすると4M3Tの7両編成になってしまいます。かといって、電動車を減らすことは不可能なので、これをなんとかしなければなりませんでした。

 考えられるのは先頭車の一方を「やくも」用につくられたクモハ381形のように制御電動車にすることでした。ところが、この場合はグリーン車が編成の真ん中に連結しなければなりませんでした。もちろん、既に7両編成を組んでいたこともあるので、サロは真ん中に組み込まれていて特に問題はなかったと考えられるでしょう。しかし、国鉄が採った方法はモハ381形を先頭車化して制御電動車を組み込むのではなく。サロ381形を先頭車化改造して制御車としたのです。

 

《次回へつづく》

 

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