関東近辺で生まれ育ったせいか、関西の私鉄にはあまり縁がないのですが、それでも時折乗る機会に恵まれることがあります。
関西の私鉄は国鉄や他社と同じような区間を走る路線を抱えるため、常に乗客を奪い合う熾烈な競争に晒されてきた歴史がありました。
そのために、できるだけ我が社の電車にお客さんを誘導しようと、あの手この手の戦略に打って出ます。例えば座席はクロスシートでワンランク上の座席サービスを提供、もちろん特別料金など取りません。あるいは、スピードで勝負をかけるべく、高性能の電車を走らせもします。
ともかく、三つ巴、いえ四つ巴の激しい闘いは今なお続いているのです。
阪神電気鉄道もそのような競争を繰り広げ続けてきた歴史をもつ会社。
大阪梅田から元町駅で神戸高速線へ乗り入れ、神戸へといたる路線に列車を走らせています。この区間は、国鉄→JR西日本や阪急神戸線と並行するので、ともかく少しでも早く、そして快適にお客さんを運ぼうと様々な策を施してきました。
そのような中で、普通列車は高速で走る特急などの優等列車の間を縫うように知りますが、阪急の特急はともかく脚が速く、そして列車の運転間隔が短いのです。お客さんからすれば「待たずに乗れる」のでしょうが、運転する側はそんなに簡単な話ではありません。
ですから、特急と特急の間を走る普通列車には、それに見合った性能が求められました。
そこで、阪神電鉄は「ジェットカー」とよばれる車両を世に送り出しました。
この電車、その名の通りジェット機のような俊足ぶりで、私鉄随一の加速力を誇ります。なにしろちょっとでも油断をしていると、加速する時に体を後ろに持って行かれるほどだったのです。
その「ジェットカー」と呼ばれる、5001形電車は1977年から製造されてから、すでに40年以上も経っています。齢は重ねていても、今なおその高性能ぶりは衰えることを知らず、今日も現役で走り続けています。
これだけ歳を重ねても現役を続けるのは、会社の台所事情もさることながら、関東の私鉄に比べて関西の私鉄は古い車両でも使い続ける傾向があるように思えます。こうしたあたりの理由は分かりませんが、きっと土地柄というのもあるのかも知れません。
さすがに40年以上も前につくられた電車、車内に入るとそのインテリアデザインの古さは否めませんでした。壁や床、座席に使われている色の組み合わせも、昭和時代の電車といった感じがにじみ出ています。
それでも、座席に腰を下ろすと、最近の新しい電車のような堅くてまるで公園のベンチに座っているような座席ではなく、座面のコイルバネがしっかりと体を支えて、しかもある程度のフカフカ感がある座り心地のいい座席が、歩き疲れた身にはとても有り難いものでした。
このあたりも、さすがは昭和の車両。平成生まれにはない、行き届いたサービス設備と思うのは、やはり筆者が昭和の時代を引き摺っているせいなのでしょうか。ともかく、座り心地が良かった印象です。
夏場に車内を冷やす冷房も、国鉄が開発したAU13形分散冷房装置をそのまま私鉄の電車に乗せたもの。それでも、しっかり冷やせるのですから、昔の機会は頑丈というか信頼性が高いのでしょう。
続々と最新技術を搭載した後輩たちがやってくる中、今日も六甲の麓を走り続けているのでしょう。