旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

もう一つの鉄道員 ~影で「安全輸送」を支えた地上勤務の鉄道員~ 第一章・その18「機関区での整備…台車検査と臨時検査」【前編】

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◆機関区での整備…台車検査と臨時検査【前編】

前回までは

 自動車に法定12か月点検と車検があるように、鉄道車両にも法定点検がある。車検に相当する全般検査は小倉車両所のところでもお話ししたように、文字通りオーバーホールになる大がかりな検査なので、これは設備も敷地も人員もいる車両所で行っている。
 もう一つの台車検査は、全般検査のオーバーホールとまではいかないもののそれなりに大がかりな検査だ。台車検査はその名の通り重要な足回りを中心にする検査で、車体から台車を切り離して油脂や消耗品を交換したり、破損箇所がないか正常に動作するかなどを検査している。
 車両所に送るほどではないので機関区で検査はできるが、ピットだけがある検査線だけではできないので、車体を持ち上げるジャッキのある検査庫に機関車を運び込んで検査をする。もちろん、そうしたジャッキは機関区には必ず備えている。
 ある日、DD51ディーゼル機関車の台車検査が検査庫内であった。
 一番ビックリしたのは、切り離した台車はそのまま人力で転がして、機関車の前方へ移動させたことだった。何人もの車両係があの重い台車を押すことで移動ができるということだ。
 そして、切り離された台車は部品を取られ、台枠と車輪もバラバラにされてしまう。それぞれ離された部品は熟練の人たちによって細かく検査されていくが、その人たちが必ず持っている道具が二つあった。
 一つは懐中電灯だ。日中の明るい時間帯になんで懐中電灯を持っているんだろうと不思議そうに見ていると、懐中電灯の明かりを台枠などの部品に当てて、目立った傷がないかなどを調べるのだった。
 なるほど、これなら見つけることもできなくもないな、と思った。
 明かりに照らされることで、制輪子…ブレーキパッドの鉄粉まみれになった部品の凹凸が判るそうだ。もちろん、そんな離れ業、一朝一夕にできるようなものではなく、やはり経験がものをいうそうだ。
 もう一つはハンマー。ハンマーといっても釘や杭を打つようなものではなく、ヘッドがもの凄く小さくて片方が尖ったもの。そしてハンマーの柄はやたらと長い。実はこれを「点検ハンマー」と呼ぶものだそうだが、そのハンマーで台枠や部品を締め付けているナットを叩いて、その音で不具合を見つけるという、機関区で車両の検修に携わる人なら誰もが持っている道具だった。

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▲検査中のDD51形。台車検査は車体をジャッキで持ち上げ、台車を切り離した上でボンネットの蓋を外し、エンジンが剥き出しの状態で検査を受ける。写真は車両所での光景で天井クレーンが写っている。(©Hypyer Maniac Man Wikimediaより)

 もちろん、私は研修生なのでそのような道具は持たされていない。だから、先輩が作業をする傍らでじっと見て勉強をするしかなかった。
 次に驚かされたのは、台車検査という名前の通り台車を中心に検査をするのかと思っていたら、実際にはエンジンも検査されるということだった。DD51形は車体の中央に運転台があり、それを挟むように長細いボンネットがあるが、その中にはV型直列12気筒という巨大なディーゼルエンジンが収まっている。そのボンネットの蓋をクレーンで取り外すと、普段は目にすることのないエンジンが姿を露わにするが、とにかくその大きさにはビックリした。
 どのくらいの大きさかというと、ドラム缶を横にしてその太さを一回り太くしたものを3つつなげたくらいだろうか。自動車に積んでいるエンジンなど比ではないほど巨大で、それがあの狭いボンネット中に他の機器と一緒に納められている。それが2台もあるのだから、かなり強力なのは容易に想像できた。
 エンジン自体は車体から外すことはなく、そのままの状態で検査がされるが、やはりこちらも多くの人の手によって入念に検査がされていった。もちろん、エンジンオイルの交換や、ラジエターの冷却水も交換される。ベルト類などもあって、熱で消耗する部品もこの時にすべて交換されのだ。

【この項つづく】