旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

豪雨災害で物流の寸断が続く山陽本線、貨物列車の迂回運転実施へ

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 平成30年7月豪雨から早くも1か月が経ちました。

 この災害でお亡くなりになられた方に、改めてご冥福をお祈りいたします。また、被災された皆様には心からお見舞いを申し上げるとともに、1日も早い復興をお祈りいたします。

 さて、この豪雨で日本の大動脈でもある山陽本線が大きな被害を受け、今なお列車の運転のができない状態にあります。
 JR西日本の発表では、被害を受けて列車の運転を休止している中国地方の各線において、復旧作業が進み8月中に順次運転再開をする路線や区間が発表されました。

 しかしながら、山陽本線は被害の程度が大きいため、当初は11月に運転再開を見込んでいました。最新の発表では、9月から10月中に運転再開の見込みとなり、できるだけ早い運転の再開を目指して、必至の作業を行っているようです。
 運転再開までは、当然のことながら人の移動も、物の動きも止まったままです。
 そのため、鉄道貨物を利用していた荷主は、サプライチェーンの見直しなどに追われるなどの影響も出ています。

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 2018年8月6日の時点で、貨物輸送についてはトラックや船舶による代行輸送を行っているようですが、それでも通常の15%程度の輸送力しかなく、他の方法による輸送力の確保が難しい状況が続いているようです。
 こうした状況は物流にとって好ましいものではありません。トラックによる代行では一度に運ぶことができる貨物の輸送量も小さく、さらに厳しい労働環境から長距離トラックのドライバー不足ので、代行輸送しようにもトラックの確保も難しい状況といえるでしょう。
 また、船舶による代行輸送は大量に運ぶことができますが、通常のほかの貨物を運ばなければならず、鉄道貨物を載せるにしても限りがあります。
 このように代行輸送ができたとしても、輸送コストは鉄道に比べると割高になる場合もあり、暮らしや経済に悪影響を及ぼすといえます。

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 そのため、できるだけ貨物の輸送力を確保するため、JR貨物山陰本線を経由する迂回輸送を検討してきました。そして、線路を保有するJR西日本と協議・検討を重ねてきた結果、伯備線が1日運転再開をしたことから、伯備線山陰本線山口線の迂回ルートで貨物列車の運転をすることが発表されました。

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 伯備線はこれまでも貨物列車が運転されていました。また、山口線山陰本線・岡見-益田間ははかつて2013年まで貨物列車を運転していた実績があります。伯備線は定期の貨物列車が運転されているのでよしとして、山口線は貨物列車卯が運転されていた当時と同じ軌道の状態であれば、貨物列車を運転するに当たってのハードルは比較的低いと考えられます。

 さらに、山陰本線鳥取出雲市間は寝台特急サンライズ出雲」や特急「やくも」が、出雲市より西の区間も特急「スーパーおき」や「スーパーまつかぜ」が運転されているので、線路の施設、特に軌道は高速列車の運転に適した強度があるといえます。貨物列車は特急列車に比べて重量があるので、そのままの強度で差し支えないかは実際に確認してからの話になりますが、やはりハードルは低くなったと考えられます。

 ただし、山陰本線山口線は非電化区間を走行するため、拙著の記事でもお話ししたように、貨物列車を牽くための機関車の手配、列車運転のダイヤの調整など、これらの路線を運転する機関士の確保とその訓練など課題は山積みといってもいいでしょう。

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 伯備線は既に電化され、山陰本線伯耆大山-西出雲間も電化されているので、伯備線で先頭に立つEF64電気機関車をそのまま山陰本線に乗り入れることも考えられますが、実際には非常に厳しいといえます。出雲市駅や西出雲駅には機関車をつけ替えることができる施設がないので、電気機関車山陰本線に乗り入れさせることは難しく、ここはディーゼル機関車が牽くことが現実的といえるでしょう。

 また、迂回運転が実施されたとしても、山陽本線のような輸送量を望むことは難しく、所要時間も4倍の約20時間となる見込みであることなど、引き受けることができる貨物の量を制限せざるを得ないといえるでしょう。

 しかしながら、少しでも輸送力を確保できることで、これまで滞っていた物流が少しずつ流れ出すことは大きいといえます。貨物を発送していた工場などでは、操業を再開したりあるいは操業を続けていたとしても、通常よりも抑えていたのが多少なりとも生産量を増やすことができます。

 また、製品などを受け取る着地でも、在庫が底をつくなどの影響があったと考えられます。貨物列車による輸送が少しでも再開されたことで、底をつきかけていた在庫を確保し、製品を卸したり販売したりすることが可能になってくるといえます。

 いずれにしても、流れる貨物の量は少なく、そして時間もかかってしまいまい、大動脈のバイパスとしては「細い」ものですが、経済活動が滞っていたところにとっては大きな意味があり朗報といえるでしょう。

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 自然災害における鉄道被害によって行われる貨物列車の大規模な迂回運転。阪神淡路大震災東日本大震災に次いで3例目になりますが、関係者の努力によって結実するものといえます。
 いずれにしても、現場で懸命に作業をする方々をはじめ、こうした難しい課題に取り組む関係者の努力に敬意を表すとともに、慣れない路線での運転が安全に行われることを祈ってやみません。